東大,セラミックスの焼結機構を原子レベルで解明

東京大学の研究グループは,原子分解能を有する最先端の走査透過型電子顕微鏡(STEM)を用い,電子ビーム照射により粒界移動を促進し,粒界が近傍の原子空孔(原子の穴)を吸収しながらダイナミックに移動する様子を原子レベルではじめて明らかにした(ニュースリリース)。

α-Al2O3(アルミナ)に代表されるセラミックスは,一般に焼結により作製されるが,焼結の過程で結晶粒子が接合することで粒界が形成され,この粒界が移動することで粒径が大きくなる(粒成長)。

セラミックスの粒径や粒界構造は材料強度や機能特性と密接に関係しているが,これまで一部の粒界(結晶方位の揃った特殊粒界)を除いて,どのような素過程で粒界が移動するのかが分かっていなかった。

セラミックスはミクロンオーダーの小さな結晶粒子(粉)を焼き固めて作製(焼結)するが,粒子が成長しながら(粒成長)他粒子と合体し,その境界には粒界が形成される。粒界では原子が多面体の構造を形成するが,一般粒界では粒界を挟む二つの結晶粒の方位が任意のため,この多面体の体積は特殊粒界(方位の揃った粒界)に比較して通常大きい。

焼結メカニズムを解明するためには,焼結中にこのような一般粒界がどのようにして移動するかを観察する必要があるが,通常の方法では原子レベルの動的挙動を安定に観察することが困難だった。

そこで研究グループは,原子分解能走査透過電子顕微鏡法と電子ビーム照射法を高度に組み合わせ,粒界移動を原子レベルで観察することに成功した。粒界を形成する片方の結晶粒子に電子ビームを照射するとその結晶粒子のエネルギーが上昇し,粒界は電子ビームを照射した粒子の方向へ移動する。この方法では,試料の一部にのみ電子ビームを照射するため,粒界移動のような原子レベルでの動的な現象も非常に安定に観察することが可能となる。

今回の実験で得られた30秒ごとの粒界の移動を示す原子分解能電子顕微鏡像では,粒界移動の様子が原子レベルで観察できた。粒界の構造多面体がその形状を変化させながら左から右へと移動し,最終的には元の構造に戻ることがわかった。

今回発見した一般粒界の場合,粒界の構造多面体の形状は変化せず,空孔(原子の穴)を吸収しながら左から右へと移動し,最終的にはその空孔に再度原子が入ることによって元の構造に戻ることがわかった。

これらの知見は,優れた特性を有する次世代セラミックス材料の設計および創出につながると期待される。研究グループは,このような新たな「粒界構造制御」といった視点からのボトムアップ式材料設計を行なうことで,他の多様な材料系への応用も期待できるとしている。

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