東北大学の研究グループは,自由な形状に形成可能かつ任意の屈折率特性を有するテラヘルツ光学素子の実現を目指し,メタマテリアルを内包した粉末状の新たなテラヘルツ光学材料の加工・形成技術を確立した(ニュースリリース)。
次世代通信では,テラヘルツ波を自在に操作するためのレンズ・プリズム・フィルタ等の光学素子が必要となる。しかしながら,テラヘルツ領域では光学材料の選択肢が乏しく,加工が容易で幅広い屈折率特性を有する新規材料の開発が待たれている。
メタマテリアルは,超微細構造体で構成される人工光学物質で,これまでの電磁波操作技術の限界を打ち破るとして注目されている。研究では,自由な形状に形成可能かつ任意の屈折率を有する三次元バルクメタマテリアルを,安価で大量に部材として提供可能な製造技術の開発に世界で初めて成功した。
開発した三次元バルクメタマテリアルは,透明樹脂中にメタマテリアル単位構造が三次元的に方向依存なく分散された構造であるため,偏光依存性が解消され,等方的な光学特性が実現できるという。メタマテリアルの単位構造は,半導体の微細加工技術を用いてパターニング可能な任意の人工的な構造体にすることができる。
任意形状のメタマテリアル単位構造を形成可能な製作技術を用いた立体的メタマテリアルは実現されているが,厚みの制約や構造の向きの制約があり,三次元的に等方分散されたバルクのメタマテリアルは実現されていなかった。また,自己組織化パターニングやバイオテンプレートを用いた製作方法は,メタマテリアル単位構造の形状が制約されてしまう。
開発したメタマテリアルは粉末として供給可能。テラヘルツ波の波長よりも小さな数十~数百μm程度の大きさのメタマテリアルが内包された樹脂製粉末を液状樹脂に攪拌し,型を用いて凝固させることで,任意形状かつメタマテリアルの設計に応じた屈折率特性を持つ光学物質(三次元バルクメタマテリアル)を製作できる。
金型成形により,直径12mm,厚さ1.6mmの三次元バルクメタマテリアルを製作することに成功した。代表的なメタマテリアル単位構造のスプリットリング共振器を内包した1辺100µm の立方体の粉末を用いて製作し,メタマテリアルは三次元的にランダムに分散配置されている。これを用い,周波数0.7THz付近において,屈折率を0.135変化させることに成功した。
開発したメタマテリアルは固体の粉末材料として供給可能。研究グループは,金型成形や切削加工などの機械加工により,メタマテリアルを自由に加工してテラヘルツ光学素子を実現できるとしている。