理研,光で制御するフォトコンデンサ材料を開発

理化学研究所は,「強誘電性」を持った「ネマチック液晶」に光応答性を付与し,光によって比誘電率を広範囲にわたって制御できる材料を開発した(ニュースリリース)。

光に応答する材料や素子は多く利用されているが,光応答できる「フォトコンデンサ」の報告例は少なく,光応答に伴う静電容量の変化も大きくなかった。

研究グループは,強誘電性ネマチック相を示す含ジオキサンフッ素系液晶性化合物のDIOと呼ばれる材料に,光応答性を持つ有機分子を少量添加する方法で,可視光に応答し比誘電率がおよそ100倍も変化する材料を開発した。

新たに合成した光応答性分子,Azo-Fを添加した強誘電性ネマチック液晶は,波長500~550nmの緑色の光照射で比誘電率が減少し,波長400~450nmの青色光照射で比誘電率が増加した。

Azo-Fを4%混合した強誘電性ネマチック液晶では,光照射前の比誘電率は最大値で約18,000(εmax)だったが,緑色の光(波長525nm,180mWcm-2)の30秒照射で,最小値で約200(εmin)まで下がった。

この状態に青色の光(波長415nm,7mWcm-2)の30秒照射で,比誘電率は最大値の18,000にほぼ戻り,このときの比誘電率の変化率(εmaxmin)/εmaxは99.5%に達した。この変化率は,各種外部刺激に応答する従来の誘電体材料の中で最大だとする。

また,緑色と青色の光を交互に照射することで,この変化を可逆かつ何度も(100回程度まで確認)繰り返すことができた。応答時間も,レーザーなどを用いることで,数秒以下で同様の変化が得られた。解析の結果,強誘電性ネマチック液晶では,分子の局所的な配向構造が強誘電性の発現に関わっていることが示された。

強誘電性ネマチック液晶は流動性を持つため,平坦な電極の間に挟むだけで平行平板コンデンサを構成でき,通常のネマチック液晶を挟んだ場合と比べ,およそ1000倍も大きな静電容量を持つ。コンデンサの電極材にITOを用いると,光応答性の強誘電性ネマチック液晶まで光が届く。コンデンサの静電容量を緑色,青色の光の照射で増減させることができ,フォトコンデンサが実現できる。

この「液晶セル」(電極面積50mm2,電極間距離17.8µm)を作製し,静電容量を約4nFから360nFにわたって光制御できることを確認した。さらに,電気発振回路へ組み込み,100Hz~8.5kHzで発振周波数を変化させることができたという。

今回加熱が必要な材料を使ったが,室温でも利用できる強誘電性ネマチック液晶で室温でも動作するフォトコンデンサは実現可能。基本的な素子構造は液晶ディスプレーと同じであるため,研究グループは,既存の液晶技術・産業基盤を利用できる可能性もあるとしている。

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