理研ら,膜タンパク質の光イオン輸送の仕組み解明

理化学研究所(理研),兵庫県立大学,高輝度光科学研究センター,東京大学は,太陽光などの光を受けて塩化物イオン(Cl)を細胞内に輸送する海洋細菌由来の「光駆動型イオンポンプロドプシン」の構造変化を,X線自由電子レーザー(XFEL)施設「SACLA」を用いた高解像度の構造解析により解明した(ニュースリリース)。

近年開発されたX線結晶構造解析法の一種である「時分割結晶構造解析法」では,タンパク質の微細な動きを高い時間分解能で観察できる。

この手法により,現在までに,陽イオンを細胞外に排出する機能を持つ光駆動型イオンポンプロドプシンについて,光照射に伴う詳細な構造変化が明らかにされている。一方,陰イオンを細胞内に取り込むものについての時分割結晶構造解析はまだ行なわれていなかった。

微生物型ロドプシン「NM-R3」は,光を受容すると陰イオンである塩化物イオンを一つだけ細胞外から細胞内に輸送する。さらに,同じ陰イオンである臭化物イオン(Br)やヨウ化物イオン(I)も同様に取り込むことができる。研究では,塩化物イオンを輸送する光駆動型イオンポンプロドプシンの構造変化を明らかにするため,NM-R3を対象に時分割結晶構造解析を行なった。

まず,NM-R3を合成し,塩化物イオンの代わりに臭化物イオンやヨウ化物イオンを含む溶液を用いて精製した微結晶に光を照射したところ光の吸収率が変化し,結晶中でもNM-R3の構造変化を伴うイオン輸送機構が働くことが分かった。

次に,X線自由電子レーザー(XFEL)施設「SACLA」を用いて時分割結晶構造解析を行なうため,臭化物イオンを入れて精製したNM-R3の微結晶に540nmの緑色レーザー光を照射し,1ms後のデータを収集したところ,細胞質側にイオンの通る空間が形成され,同時に細胞外側ではイオンの逆流や過流入を防ぐような構造変化を観測した。

続いて,ヨウ化物イオンを用いたNM-R3の微結晶で,同様に時分割結晶構造解析を行なった。ヨウ化物イオンは異常分散効果により,その位置を臭化物イオンよりも同定しやすい。この性質を利用し,光照射後10μsと,1msにおける輸送されたヨウ化物イオンの位置の同定を試みた。

解析の結果,10μs後にヨウ化物イオンは細胞質側に移動し,1ms後には既に排出されていることや,ヨウ化物イオン排出口に近い細胞質側周辺に,ヨウ化物イオンが輸送される経路が存在することが示唆された。

微生物型ロドプシンは,新しい機能を持つものが現在も次々に見つかっており,一部は神経科学研究における光遺伝学のツールとして応用されている。研究グループは今回の成果が,光遺伝学ツールの改良につながるとしている。

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