東北大学と大阪大学は,細長い「針」状の分布を持つレーザー光を1回2次元走査するだけで,試料の3次元情報を一挙に取得する新たなレーザー顕微鏡を開発した(ニュースリリース)。
レーザー走査型の蛍光顕微鏡法で3次元画像を得るためには,観察面を移動しながらレーザー光の2次元的な走査を何度も繰り返す必要があり,取得に時間がかかるという制約があった。また,レーザー光の長時間照射による試料への影響(ダメージ)や光退色も課題とされてきた。
研究グループは,試料の深さ方向に伸びた「針」状の強度分布を持つレーザー光を使ったイメージング法に着目。このような針状スポットを用いたイメージングでは,試料の深さ方向に対して広い範囲でピントの合った画像が得られ,最近では生きた生体脳での神経活動を高速に観察する技術としても活用されている。しかしながら,この方法では深さ方向の情報が失われた2次元画像しか得られなかった。
そこで研究グループは,試料から発生する蛍光信号に対して,その空間的な伝搬特性を操作する新たな原理を考案した。これは,計算機合成ホログラムを応用しており,顕微鏡装置に空間光変調器を導入することで実現する。研究グループでは,針状スポットによって照明された発光物体が,その深さ位置に応じて像面での異なる面内位置に像を結ぶような波面制御パターンを設計した。
これによって,針状スポットの深さ方向に沿って存在する発光物体の情報を像面での面内方向の情報として変換し,異なる深さ情報を同時に検出することが可能になるという。研究グループでは,この原理に基づいたレーザー顕微鏡システムを構築し,通常の集光スポットの20倍以上の長さを持つ針状スポットの1回の2次元走査から,深さ20μmの範囲の3次元的な撮像に成功した。
さらに,水中に浮遊する蛍光ビーズがブラウン運動する様子を3次元的な動画として記録した。レーザー光を試料面で2次元に走査するタイプの顕微鏡システムにおいて,このようなビデオレートでの3次元微粒子追跡性能は初めてという。
また,構築したシステムでは深さ20μmの深さ範囲を一挙に可視化できることから,厚みのある試料に対しても少ない撮像回数で3次元観察が可能。実際に,従来の装置では200回近い2次元撮像を繰り返す必要のあった生体試料に対しても,このシステムでは13回の撮像で同じ領域を可視化でき,3次元観察に対して10倍以上の高速化に成功した。
研究グループは今後,装置の小型化と適用範囲の拡大を図りながら,実用化へ向けた検討を進めていくとしている。