大阪大学の研究グループは,世界で初めて固体状態の重水素とトリチウムの混合体の屈折率の測定に成功した(ニュースリリース)。
トリチウムは放射性同位元素であることから,その取り扱いには安全を第一とした取扱いが求められており,トリチウムを取り扱いができる施設は限られている。このため,トリチウムの基礎的な性質のいくつか(今回の屈折率などの物性値)は必要であっても測定ができていない。
今回,大阪大学でこれまでに蓄積したトリチウム取り扱い技術とレーザー測定技術を利用して,世界で初めて固体状の重水素―トリチウム(D-T)の屈折率の測定に成功した。
固体のD-Tの粒は,将来の核融合発電炉において注入燃料として利用される予定だが,効率的な発電を行なうには高い精度でのD-Tの粒の形状と組成のコントロールが必要となる。光を用いた分析を利用すれば一度に形状と組成を知ることができる。
しかし,光を用いた分析において最も基礎的なデータである屈折率の測定が固体状のD-Tについては行なわれていなかった。このため軽水素などの値から推測された経験式から得られるデータを代用していた。
固体状のD-Tの屈折率の測定には,気体のD-Tを極低温まで冷却し固体とする必要がある。極低温で放射性同位元素であるトリチウムを取り扱う技術的な難しさに加え,その場での光学測定には高い技術力と知識の蓄積が必要不可欠だった。
研究グループは,高い安全管理の下,約4テラベクレル(TBq)のトリチウムと重水素を1:1の割合で混合し,密封セル内でマイナス255度以下の極低温にすることで固化し,高精度で屈折率を測定した。さらに温度を下げることで,固体状態の屈折率の温度依存性を明らかにした。
トリチウムの新たな物性値が明らかになるのは約60年ぶりのこと。大阪大学のにはトリチウムを扱う技術と光学測定技術があり,今回,これらを利用して世界で初めての固体状D-Tの屈折率測定に挑戦し,成功した。
この成果により,将来の核融合発電炉の固体重水素-トリチウム燃料の検査手法が確立され,核融合炉の設計が進むことが期待される。また,近年の放射性物質の厳しい取り扱い基準の下で高い安全性を確保し,大容量のトリチウムを取り扱った技術的知見が得られたことにより,今後の放射性物質を使った研究開発や後進の育成に貢献することが期待されるとしている。