九州大学と東京大学は,結合位相振動子と呼ばれる数理モデルを用いて,振動子間の相互作用およびノイズの大きさを,自然に発生する振動の時刻のデータだけから推定する公式を導出した(ニュースリリース)。
約24時間周期の概日リズムや約1秒間隔の心臓の拍動など,生物に見られる多様なリズムは,振り子時計にもたとえることができる「振動子」から作り出されている。
リズムを乱す要因となりうるノイズにさらされた中でも安定的なリズムが生み出されている理由は,複数の振動子が相互作用することによって,互いに足並みを揃える「同期状態」を維持しているため。逆に,相互作用が十分強くなければ機能不全に陥る。
相互作用の強さを,観察対象を傷つけることなく自然な状態のままで測ることができれば,相互作用によって機能を正常に保つ仕組みを明らかにできる可能性がある。
研究グループは今回,結合位相振動子と呼ばれる数理モデルを用いて,振動子間の相互作用およびノイズの大きさを,自然に発生する振動の時刻のデータだけから推定する公式を導出した。数値シミュレーションによる検証実験で正確な推定が達成されていることが確認され,推定公式の有効性が示された。
この研究の推定公式は,結合の大きさが振動周期のばらつきとどう関係しているかを世界で初めて明確に記述したもの。機械学習に大きな期待が寄せられている現在,ビッグデータを収集することで新たな知見を得ようとするアプローチは正当といえる。しかし,事前に教師データが手に入らない状況は多々あるため,現象を方程式で記述し法則性を導き出す解決方法も依然として有望となっている。
この手法は教師データを必要とせず,しかも,比較的少量のデータで正確な推定を実現する。研究グループは,この手法によって,生物システムなどのデリケートなシステムの情報を得られる可能性が大きく広がったとしている。