名古屋大学と東京大学は,シリコンナノ結晶により導電性を向上させた酸化シリコン保護膜を新たに開発した(ニュースリリース)。
シリコン酸化膜を,結晶シリコンの表面を保護するパッシベーション膜として用いた太陽電池は,高い変換効率が期待でき,次世代太陽電池として期待されている。
一般的にはガラスと知られている酸化シリコンは電気抵抗が高いため,結晶シリコン内で生成した電子や正孔を収集することが可能な,1~2nm程度の非常に薄い膜厚に制限されている一方,シリコン酸化膜の膜厚は,厚い方が結晶シリコン表面に対して良好なパッシベーション性能を示す。
シリコン酸化膜が非常に薄い場合は,太陽電池の動作中,シリコン酸化膜が変化し,性能が低下することが懸念されるため,長期信頼性という観点から,シリコン酸化膜は厚い方が有利となる。そこで研究では,厚いシリコン酸化膜においても,電子や正孔の収集可能な保護膜の開発を目指した。
シリコンナノ結晶を,シリコン酸化膜に複合化させた新規保護膜では,シリコン酸化膜中のシリコンナノ結晶が電子の通り道として働くことで,厚いシリコン酸化膜においても高い導電性(低い電気抵抗)の実現を狙った。
酸素組成の異なる水素化アモルファスシリコンオキサイドを熱処理することで,相対的にシリコン濃度の高い層(Si-rich層)内にシリコンナノ結晶が生じる。今回,この新規保護膜をNATURE構造と命名した。
実効キャリア寿命が長いほど,結晶シリコン内で生成した電子や正孔が有効利用できるため,太陽電池の変換効率は高い傾向を示す。NATURE構造を用いることで,1nmのシリコン酸化膜やシリコン酸化膜がない場合と比較して長い実効キャリア寿命が得られ,結晶シリコン表面に対して良好なパッシベーション性能が得られたという。
電流-電圧(I-V)特性では,SiOy膜のみを用いると直線的なI-V関係が得られず,接触抵抗が高く電子の輸送が阻害されていることが分かった。一方で,NATURE構造では,SiOxを用いた構造に匹敵する低い接触抵抗を示し,電子が適切に輸送されていることが分かった。
シリコン酸化膜は,多種多様な材料の積層にも適しており,シリコン太陽電池と異種材料の太陽電池を積層した高性能タンデム型太陽電池や,シリコン集積回路にさまざまなデバイスを集積することなどへの展開も期待できるという。研究グループは,太陽電池の主力電源化を促進し,脱炭素社会の早期実現に資することが期待されるとしている。