国立環境研究所,非光合成性へ移行過程の藻類発見

国立環境研究所は,光合成性から非光合成性へ至る進化の移行過程の藻類を世界で初めて発見した(ニュースリリース)。

国立環境研究所微生物系統保存施設(MCC-NIES)では,1983年の開設以来,約1,000種,合計3,000株以上の多様な藻類の培養株を収集・保存・提供しており,その種数や保存株数は世界トップクラスを誇る。これらの培養株は地球環境問題の解決やカーボンニュートラル社会の実現に向けた研究など,国内外の幅広い分野で広く利活用されている。

藻類は基本的に,光エネルギーを利用して二酸化炭素を固定し,光合成をすることで有機物と酸素を作り出している。ヒトは自分自身で有機物を作れないが,藻類は自身で有機物を作ることができる独立栄養性といった地球上で生き延びるための優れた特性を持っている。

しかしながら,現在までに藻類の多くの系統で光合成をやめた種が報告されており,その一部にはマラリア原虫などの寄生性や病原性の種も含まれる。このような光合成をやめた“(かつての)藻類”は,光合成をしない代わりに,吸収栄養などの従属栄養性へとライフスタイルを変化させることで,外から有機物を獲得するようになることが知られている。

自分自身で有機物を作る方が外から有機物を獲得するよりもメリットがあると思われているため, “光合成をやめる進化”をする藻類がいることは,藻類の進化の中で大きな謎の一つとなっている。

そこで,研究では,光合成能力の消失がどのように生じるのかということを解明するため,微生物系統保存施設に保存されている多数の培養株の中から「光合成能力を消失する直前の藻類を網羅的に探す」といったアプローチで研究を行なった。

その結果,研究グループは,MCC-NIESの藻類培養株を活用し,クリプト藻培養株を網羅的に解析することで,光合成遺伝子群をコードする葉緑体ゲノムとそのDNA配列の一部が変化した葉緑体ゲノムが混在する種を世界で初めて発見した。

通常,藻類の葉緑体ゲノムは同じDNA配列で構成されるものであり,研究グループは,このクリプト藻が光合成を失う進化の移行段階にあるとみて,実在の藻類でその仮説を裏付ける,初めての例と位置付けた。

研究グループはこの知見をもとに,餌資源として利用されるクリプト藻株の選択,培養条件の最適化を通して養殖魚の品質向上に貢献ができる可能性があるとともに,寄生性や病原性原生生物には光合成能力を消失したものが多いため,この知見はこれらの生物の進化プロセスの理解にも繋がるとしている。

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