広島大学の研究グループは,世界トップレベルの発光効率(最大80%)を与える,赤色発光ナノシリコン(シリコン量子ドット)の合成に成功した(ニュースリリース)。
量子ドットは,①粒子のサイズによりフルカラー発光,②高効率発光(カドミウム系量子ドットで98%の発光量子収率),③極採色(狭い発光幅(20-40nm)で有機ELの3-4倍の色域),④溶液プロセスによる低温・大気圧でのデバイス製造(真空,高温,クリーンルーム不要)という特長がある。
量子ドットは有機ELに後続する光材料として期待される一方,その本格的普及には,①毒性(主な商品・研究は重金属を使用),②発光の高効率化(単結晶シリコンの発光量子収率は0.01%。最近発光量子収率60%を超えるSi量子ドットが報告され始めたが,そのメカニズムは不明だった)。
研究グループは今回,出発物質を焼成,酸処理し,表面が水素で覆われたシリコン量子ドット(SiQD)を合成した(直径3nm)。これをコアとして,表面をリガンドで化学修飾し,最終生成物となるデシル基修飾のSiQDを合成した。その結果,赤色発光(発光波長680nm)する溶液分散のSiQDが得られた。
今回のポイントは,これら表面の化学修飾を二つの異なる反応で行ない,それぞれの構造と物性を数値化し,更にそれを高効率発光のメカニズムと紐づけたことにあるという。具体的には,SiQDの表面化学修飾を熱反応(150℃)と常温反応(ラジカル開始剤を使用)と2種類で行なった。その結果,両者の発光の量子収率(PLQY)が著しく異なった。
具体的には,熱反応ではPLQY=19%,常温反応ではPLQY=54%を与えた。更に,後者のSiQDは最大でPLQY=80%となった。この値は,SiQDとしては世界トップレベル。これらのSiQDの化学構造,物理構造,リガンドの表面被覆率を解明し,高効率発光の代表的な要因として以下の四つを解明した。
①炭化水素基,酸素の表面被覆率が,それぞれ3%程,20%程であること
②塩素基が重要であること(表面被覆率4%程)
③SiQDの結晶性が90%程であること
④表面は引っ張り応力により歪み,その値が1nN nm−2程であること
次に,赤色発光するLEDを溶液プロセスで作製した。特に常温反応のSiQDを搭載したLEDは,高温反応のそれより20倍の発光強度を与えた。これは,①絶縁性リガンドの被覆率を1/3にすると電流密度が10倍増,②塩素基により非発光過程が1/2に抑制,と結論づけられた。
開発した手法は,他のリガンドを持つSiQDにも拡張できるため,高効率SiQDとそのLED 製造における有力モデルになることが期待されるとしている。