北陸先端科学技術大学院大学(JAIST),京都大学,産業技術総合研究所は,レーザー加工と集束イオンビーム加工によりダイヤモンド中の窒素-空孔複合体中心(NV中心)と呼ばれる極小な量子センサーをプローブ先端に含有するナノ量子イメージングプローブの作製法を開発した(ニュースリリース)。
近年,新しいデバイスやセンサーの創出による環境・エネルギー問題の解決,安心安全な社会の実現,これらによる人類社会の持続的繁栄への貢献が求められている。
この中で量子計測・センシング技術は,量子力学を原理とした従来とは異なる革新的な技術を提供する分野であり,将来の社会基盤を支えるしくみを一新すると期待されている(量子技術イノベーション)。
その中でも,ダイヤモンド中の欠陥構造であるNV中心を用いた量子計測技術は,室温・大気中で動作可能なこと,センサーサイズがナノスケールであることより注目を集めており,特に,NV中心を走査プローブとして用いた際にはナノスケールの量子イメージングの実現が期待されている。
従来,走査NV中心プローブの作製にはフォトリソグラフィーと電子線リソグラフィーを用いたリソグラフィー法が用いられていたが,この方法ではプロセスが複雑であること,再加工ができないという課題があった。
研究グループは今回,レーザー加工と集束イオンビーム加工(FIB)による加工自由度の高い走査NV中心プローブの作製法を開発し,さらに磁気イメージングの動作を実証した。
研究ではまず,表面下約40nmにNV中心を有するダイヤモンド結晶の板を,レーザー加工によりロッド状の小片に加工した上で,水晶振動子型の原子間力顕微鏡の先端に取り付けた。続いて,FIB加工においてドーナツ型の加工形状を用いることで,この小片の中心位置に存在するNV中心の加工ダメージを回避して走査ダイヤモンドNV中心プローブを作製した。
このNV中心プローブを走査しながら磁気テープ上に記録された磁気構造からの漏洩磁場を光学的磁気共鳴検出法(ODMR)により計測し,磁気構造のイメージングに成功した。
研究では,レーザー加工とFIB加工による加工自由度の高い走査NV中心プローブの作製法の開発に成功した。研究グループは今後,プローブの形状や表面状態を最適化することで,より高性能な走査ダイヤモンドNV中心プローブを作製し,量子イメージング分野に貢献するとしている。