物質・材料研究機構(NIMS)らの研究グループは,個々のカーボンナノチューブ(CNT)に対して局所的にらせん構造を変化させ,金属-半導体転移を制御することにより,CNT分子内トランジスタの作製に成功した(ニュースリリース)。
導体CNTは,エネルギー効率が高いナノトランジスタ用素材として期待されているが,立体構造や電子特性を決定する個々のCNTのらせん構造を制御することは,依然として難しい。
研究では,透過型電子顕微鏡(TEM)内において独立3次元操作可能な2本の探針を備えた特殊なホルダーである二探針ピエゾ駆動ホルダーを応用した精密ナノマニピュレーション技術を開発した。
TEM観察下で金属電極エッジから突出した個々のCNTを探し出し,ナノ探針を接近させて,加熱(ジュール熱)と引っ張りひずみによりCNTを塑性変形させることで,中間のホットスポットに局所的なカイラリティの変化を誘起した。この変化を,電子回折パターンと球面収差(Cs)補正TEMにより取得した原子分解TEM像を用いて解析して,らせん角が増大する傾向を発見した。
また,CNTを架橋したチャネル,固定電極をソース電極,1本のナノ探針をドレイン電極,もう1本のナノ探針をゲート電極としたサスペンデッド型トランジスタを配置することで,CNTの電気輸送特性をTEM内で測定した。
この電気的測定結果をフィードバック信号として,繰り返し行われる熱・応力の調整により金属CNTから半導体CNTへの転移制御を可能とすることで,CNT分子内トランジスタの製造に成功した。その結果,CNTの直径を連続的に小さくしていくと,ドレイン電流を流すのに必要なゲート電圧が大きくなり,CNTのバンドギャップがCNTの直径に反比例することを明らかにした。
研究では,直径約0.6nm,チャネル長約2.8nmのCNTトランジスタを作製。カイラリティが変化したCNTチャネルの長さがナノメートルスケールであることから,円周方向に加えて,軸方向にも量子力学的な閉じ込め効果が生じていると考えられる。
室温でCNTに量子干渉が観測されたのは,カイラリティ変化を生じた短いセグメントの大きなエネルギーギャップと,共有結合したナノチューブ接合部での電子散乱が減少したことによるものだという。
研究グループはこの成果をもとに,CNTのカイラリティを利用した先駆的な電子デバイスを実現するための研究を進めている。今後は,単一分子,単一原子レベルの電子,量子機能デバイスの設計と製造を目指すとしている。