東北大学の研究グループは,光・電子デバイス材料に有望とされる,酸化チタンの一種であるラムダ型5酸化3チタン(λ型Ti3O5)の高品質単結晶について,従来よりも100万倍大きな結晶の合成に成功した(ニュースリリース)。
光触媒効果を示す二酸化チタン(TiO2)から酸素量がわずかに少なくなったTi3O5はα型,β型,γ型,δ型,λ型と様々な結晶多形を持つ。
この中でλ型は準安定な結晶であり,外から光・電流・圧力の刺激を加えることで別の型へと変化することが知られている。外からの刺激で型を自在に変えられる特徴から,例えば光を利用する場合には書き込み可能な光学メデイア(CD-R,DVD-RWなど)に,電流を利用する場合には相変化メモリへと応用できる。
しかし,λ型Ti3O5は,これまでナノメートルサイズの非常に小さな粒子しか合成できていおらず,光学メデイアやメモリ応用には大きなサイズの高品質な結晶が必要だった。
研究グループは,薄膜技術を活用し,大面積かつ高品質なλ型Ti3O5の結晶合成に取り組んだ。薄膜では下地基板からの力を利用することで,準安定な結晶を安定に取り出すことができる。そこで,パルスレーザ堆積法を用い,気化したTiO2原料を1100℃の超高温で堆積することで,基板上に直接λ型Ti3O5を合成することに成功した。
具体的には5mm角の基板上に均一に,従来に比べて100万倍の大きさの結晶が生成できた。また,薄膜中のチタン原子1つ1つを直接観測した結果,λ型の結晶構造が基板直上から形成していることが明らかになった。
さらにX線回折測定から,薄膜全体の結晶の整列度合いを評価したところ,λ型が持つ平行四辺形の構造が一方向に傾いている様子が観測され,傾きの反転により生じる欠陥のない非常に高品質な薄膜が形成できていることがわかった。
今回の成果は,外からの刺激で型を自在に変えられるλ型Ti3O5の,大面積かつ高品質な薄膜合成に初めて成功したもの。今後,このλ型Ti3O5薄膜を用いて光や電流刺激による相転移発現を進めることで,光・電子デバイスへの応用が期待される。
λ型Ti3O5はTiO2を原料とするため,安価かつ安全な材料。そのため研究グループは,λ型Ti3O5で環境負荷の大きな既存の光・電子材料の代替を進めることで,持続可能な社会の実現に貢献できるとしている。