九州大学の研究グループは,均一に自己組織化された金ナノ粒子からなる「プラズモンメタ表面」を用いて,細胞が接着し始める初期の挙動をナノの解像度でリアルタイム観察することに成功した(ニュースリリース)。
再生医療などの目的で細胞を体外で培養する場合,足場となる人工物への細胞の接着が細胞のその後の運命を決める。
数時間をかけて安定に接着した細胞の形態については,超解像度顕微鏡など様々な先端的手法により数十ナノメートルの解像度まで調べられるようになってきたが,細胞が人工物に触れた直後のごく弱い接着状態の細胞の動きについて,これまでリアルタイムに高解像度で捉えることは困難だった。
「プラズモンメタ表面」とは,自然界には存在しない特殊な光学特性を示す材料表面のうち,金属ナノ構造体から形成され,プラズモン特性を示すもの。研究では,直径約10nmの金微粒子を自己組織化させることで,極めて高い屈折率と大きな消光係数を持つナノの厚みのメタ表面を作製した。
このメタ表面の光吸収波長と細胞に発現させた蛍光タンパク質の発光波長を重ねることで,細胞にダメージを与えない高解像度イメージングを実現した。
この技術による観察の結果,細胞が「線維状」の構造体を「放射状」に出して基板に自らを仮留めした後,成熟した接着斑構造へと形態を変化させていくことを突き止めた。この現象は細胞接着性の低い基板上でのみ観察され,すなわち細胞が接着のごく初期段階で,足場となる人工物の表面の特性を捉えていた証拠となるもの。この発見は細胞と接触する人工材料を開発する上で重要な知見となるという。
また細胞の接着ダイナミクスを高い時空間分解能で観察できるこの技術は,細胞の分子レベルでの振る舞いを理解するための基盤技術として幅広い応用が期待されるとしている。