理研ら,X線偏光観測衛星を打ち上げ

理化学研究所(理研),山形大学,名古屋大学,広島大学が参加する国際プロジェクトは,「X線偏光観測衛星IXPE(Imaging X-ray Polarimetry Explorer)」を,日本時間2021年12月9日(木)午後3時に,米国航空宇宙局(NASA)ケネディー宇宙センターから打ち上げる(ニュースリリース)。

IXPE衛星は米国主導によるプロジェクトだが,日本からも観測に欠かせないX線偏光計のセンサー部品「ガス電子増幅フォイル」とX線望遠鏡の「受動型熱制御薄膜フィルター」を提供している。

X線偏光観測により,宇宙空間での現象を新しい切り口で捉えられる。例えば,恒星とブラックホールがお互いの周りを回っている連星系では,恒星から流れ出した物質がブラックホールに吸い込まれる際に,「降着円盤」というプラズマの円盤が形成される。

降着円盤はブラックホールに近づくほど高温になり,ブラックホールのそばではX線が放出される。このX線の偏光は,円盤の面に平行な方向に偏っていると考えられている。つまり,X線の偏光を見ることで,遠くにある円盤の構造が,まるでその場にいるように観測できる。

ブラックホールのごく近くでは,強い重力場やブラックホール自身の高速回転により時空がゆがめられる。それにより偏光にわずかな変化が生じるため,X線偏光を精度良く捉えれば,ブラックホール周りの時空のゆがみ具合やブラックホールの回転を観測できる。

ブラックホールと同様に小さな高密度天体である一部の中性子星は,地球磁気の100兆倍以上の強い磁場を持つと考えらえれている。そのような強磁場中では真空そのものがゆがめられ,磁場の向きにより光の速度が変化すると考えられている。

その中では波の偏りがそろうことが予想されており,X線偏光観測により,特異な真空が世界で初めて実験的に検証されることが期待できる。ほかにも,偏光観測で磁場の向きを測定できるようになるため,星の爆発で形成された衝撃波により,粒子をほぼ光速にまで加速するメカニズムなど,多くの謎が解明されるものと期待されている。

IXPE衛星は打ち上げ後,宇宙空間で1カ月間,機能・性能評価を行なった後,科学観測を始める。運用期間は約2年間を予定しているが,最初の数カ月~半年程度の観測で,多くの新発見が期待できるという。また,2年間の運用後も,衛星の機能が維持されている限り運用は延長される。

また,X線偏光天文学をさらに推し進めるために,次世代のX線偏光観測衛星も日米欧および欧中の各研究グループにより計画されているという。

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