金沢大学と埼玉大学は,小脳を模したニューラルネットワークの一種であるリザバー計算を,光を用いて超高速かつ低消費電力で処理可能な新しい光回路チップを作製した(ニュースリリース)。
新たなコンピューティング技術として光を利用したニューラルネット処理が注目されている。
だが,既存研究では1次元的な細い光配線(光導波路)によって光回路を構成しているため,光波動の空間的な自由度を活かせず高密度な実装・演算が困難であり,演算速度も限界があった。
研究グループは,スペックル現象に基づく,光の波動性による高い空間的自由度に注目した新しい光ニューラルネット回路を提案。マルチモード導波路中で生じるスペックルは,仮想的に空間的に連続で無限の自由度があるニューラルネットとみなすことができる点に注目した。
そのような光ニューロンの”場”をつくり,その高い表現能力を活かすことでニューラルネット処理の実現が期待できる。そこで,マルチモードファイバを使った原理実証を行なったが,システムサイズが大きく,演算までの遅延時間(レイテンシ)が長いという問題点があった。
今回,光ニューロン場の生成に必要な要素をシリコンチップ上に集積した新しい光回路を作製した。この光回路では,スパイラル型の結合マルチモード導波構造により,ランダム結合した光ニューロンに対応するネットワークを微小チップ内で高密度かつ大規模に実装することができ,それを情報のリザバーとして利用することで,小脳との類似性が指摘されているリザバー計算が高速・低レイテンシかつ低電力消費で可能となった。
リザバー計算は大量のデータを必要としなくても学習が可能であり,学習が簡単という特長がある。そして,再帰型ニューラルネットのように,音声や株価のように変動する時系列データの処理を得意とする。
毎秒12.5ギガサンプルのレートでのカオス時系列の1ステップ予測では,最先端の光回路の60倍以上の計算処理能力があることがわかった。光通信分野で用いられる光波長分割多重方式を用いることで更なる高速化も可能だという。
また,そのニューラルネット演算に必要なエネルギーは入射光パワーのみであり,光ネットワークの調整は必要なく,そして無配線でよいという利点などから,1 回の積和演算あたりのエネルギー消費量は既存の回路よりも遥かに小さく,0.15フェムトジュール(0.15×10-15J)と試算されたという。
研究グループは,高速現象の異常検知・認識などへの応用のほか,光通信や光計測分野などさまざまな分野への応用が期待されるとしている。