東京大学,理化学研究所および海外8か国の大学・研究機関からなる研究グループは,X線バースト天体における不安定核マグネシウムの重要な燃焼反応,X22Mg(α,p)25Al反応の天体温度における反応率を世界最高精度で決定し,観測X線量を再現することに成功した(ニュースリリース)。
宇宙における天体からのX線の大量放出現象である熱核反応爆発のX線バーストにおける光量の時間変化は多様なパターンがあり,これを理解するには,原子核反応の精密な理解が必要となる。
X線バーストは数GK(ギガケルビン)という非常に高い天体温度で短時間に起こるため,地球上には通常存在しない陽子過剰の不安定核が生成され,崩壊する前に次の反応を起す。これは,rp-processと呼ばれる高速陽子捕獲過程として説明される。
さらに,X線バーストのような高温天体では,反応経路がヘリウムと陽子を交換する「(α,p)反応」を経由して,より高速に反応が進むと考えられ,これはαp-過程と呼ばれることがある。
研究の対象となった不安定マグネシウム核の燃焼反応,22Mg(α,p)25Alは,このαp-過程の中の最重要反応の1つ。しかし,αp-過程を形成する反応の多くは,ある不安定核から別の不安定核を作る反応であるため,実験研究が非常に難しかった。
先行の研究では,不安定核ビーム強度が十分でないために,天体温度よりはるかに高い温度における反応測定を行ない,天体温度に外挿するということで22Mg(α,p)25Alの評価を行なった。
しかし,天体温度においては,不規則に存在する共鳴が反応に重大な影響を及ぼすため,この外挿は大きな不定性を含むと考えられる。そこでこの研究では,東京大学の不安定核ビーム生成技術を活用し,反応生成物である25Alから共鳴を調べるという逆転の発想により,22Mg(α,p)25Al 反応の天体温度における解明を目指した。
その結果,この反応の反応率を世界最高精度で決定するとともに,過去に観測されているX線バーストの光量をより精密に再現することに成功した。
これは,この反応が単独でも観測量に大きな影響を与える重要反応であることを具体的に示すとともに,研究が困難とされている不安定核から不安定核への反応に対し,新しいアプローチで理解を与えることを実証するものだという。
X線バーストによって起こる陽子過剰元素合成プロセスは,我々の身の回りの元素の起源の一つであり,研究グループは,今後さらに研究を進めることで,地球上の元素が宇宙でどのように準備されてきたかの理解が大きく進展することが期待できるとしている。