理化学研究所(理研)のPHENIX実験国際共同研究グループは,偏極陽子と陽子の衝突から生じる直接光子の「横スピン非対称度」の精密測定に成功した(ニュースリリース)。
陽子はクォークとグルーオンから作られているが,陽子内でグルーオンがどのように運動しているかはよく分かっていない。
陽子同士の衝突により生じる直接光子の横スピン非対称度を測定すれば,グルーオンがスピン軸の周りを回転する運動の大きさが分かることが理論的に示されている。しかし,直接光子の測定は非常に難しく,26年前に一度だけ行なわれたものの,得られた横スピン非対称度の値は低精度だった。
今回,研究グループは,偏極している陽子と偏極していない陽子を高エネルギーで衝突させ,生じる直接光子の横スピン非対称度を約0.4%という,先行測定の50倍の高精度で測定することに成功した。
得られた横スピン非対称度の値は測定精度内でゼロと一致することから,グルーオンの回転運動の大きさは,理論の最大予想値ほどは大きくないことが明らかになった。これは陽子内に存在する素粒子グルーオンの回転運動の解明につながるものと期待できるという。
PHENIXは,RHIC衝突型加速器を用いた実験の一つで,世界14カ国から78研究機関,数百名が参加する国際共同研究実験。重イオン衝突で生み出される超高温・高密度クォーク・グルーオン・プラズマや,偏極陽子衝突反応による陽子の内部構造の研究を行なう。
日本からは理研,東京工業大学,京都大学,立教大学,日本原子力研究開発機構,東京大学,筑波大学,広島大学,高エネルギー加速器研究機構,長崎総合科学大学,奈良女子大学の11機関が参加している。
現在,PHENIX実験はsPHENIXという新しい実験に向けて順調にアップグレードが進んでおり,2023年にはsPHENIX実験として開始する予定。
sPHENIX実験装置は,今回の実験データの10倍以上の数の直接光子を測定できる性能を持っているため,測定精度が約0.1%に向上するという。sPHENIX実験により,横スピン比対称度がゼロでないという測定結果が得られれば,陽子内でグルーオンが回転運動していることの確証となり,回転運動の大きさの最初の測定になると研究グループは期待している。