岩手大学の研究グループは,光に対する感度の高い光受容タンパク質(ComV1)を創出することに成功した(ニュースリリース)。
視覚は日常生活で重要な役割を担っているが,一旦失明に至ってしまうと現状では視覚を回復させる治療法はない。
中途失明を来す疾患の上位に位置する網膜色素変性症では,網膜で最初に光を受容する視細胞が選択的に障害され,失明に至る。
研究グループはこれまでに,視細胞変性により引き起こされる失明に対して光受容タンパク質を網膜で発現させることで視覚を回復できることを報告してきた。2014年には,緑藻類ボルボックス由来の光受容タンパク質mVChR1を開発し,遺伝子治療によって視覚機能を取り戻す研究を行なっている。
これまでに開発した光受容タンパク質では,光感度不足から,非常に明るい場所での視覚回復に限定されていた。また,海外で臨床試験が進められている同様の遺伝子においても,治療後も裸眼で見ることはできず,映像を高輝度で提示する特殊デバイスが必要とされている。
研究グループは,今回,mVChR1の立体構造を基に,コンピューターシミュレーションにより光受容タンパク質の光感度に関わるアミノ酸部位を予測することで,より光感度の高い新しい光受容タンパク質のデザインを行ない,これにより,新たな光受容タンパク質ComV1を見出した。
ComV1をコードする遺伝子を合成し,培養細胞を用いて光感受性を調べたところ,0.04µW/mm2(mVChR1は1µW/mm2)の光刺激にも応答することが分かり,20倍以上の低照度(暗さ)でも応答するこれまでにない高感度光受容タンパク質であることが分かった。
また,失明に至ったラットの網膜にComV1遺伝子を導入し,ComV1タンパク質を作らせることによって,盲目のラットが青~赤(可視光)の光を感知できるようになり,電気生理学的,行動学的に視覚の回復が確認されたという。
今回創出したComV1を用いることで,高輝度で映像を提示する特殊なデバイス等を利用することなく室内光レベルでも裸眼で有用な視機能が得られると研究グループは予想する。
また,一般に市販されているウェアラブル機器・スマートグラス等の映像提示デバイスと継続的な研究開発を行なっている独自の色信号制御・ソフトウェア技術(JIG-SAWとの共同研究)との融合により極めて高いレベルの新たな視覚再建治療となる可能性があるとしている。