東大ら,脂肪酸の光合成活性阻害の仕組みを解明

東京大学と中部大学は,微細藻類や植物の光合成活性を阻害する多価不飽和脂肪酸の,阻害作用の分子メカニズムを解明した(ニュースリリース)。

脂肪酸はバイオディーゼルの原料となる。世界的に脱炭素社会を目指す機運から,光合成微細藻類を用いて脂肪酸生産を行なう研究が盛んに行なわれている。

しかし,微細藻類自体が産生する脂肪酸に含まれる多価不飽脂肪酸が光合成を阻害してしまうことから,増産の大きな課題となっていた。

光合成に関わっている光合成装置(超分子複合体)の中でも,水の分解反応を担う光化学系II(PSII)複合体は,過剰な光エネルギーを受けると,不活性化してしまう(PSII 光阻害)。そこで研究グループは,PSII光阻害における脂肪酸の影響に着目した。

脂肪酸にはたくさんの種類があるため,光合成微細藻類の一種であるシアノバクテリアに含まれる炭素数18の脂肪酸のうち,二重結合の数・位置・結合様式が異なる6種類の脂肪酸を,それぞれ細胞培養液に加えて,強光下における光合成への影響を解析した。

その結果,二重結合を2つ以上もつ多価不飽和脂肪酸を加えた場合に,強光下においてPSIIの安定性が低下し,酸素発生複合体が崩壊することで,活性が急速に低下することがわかった。さらに,多価不飽和脂肪酸の一種であるα-リノレン酸を細胞に取り込ませ,どの膜脂質に取り込まれるかを解析した。

シアノバクテリアや植物細胞の葉緑体のチラコイド膜は,3種類の糖脂質と1種類のリン脂質,合計4種類の膜脂質を含んでいる。取り込ませたα-リノレン酸は,リン脂質であるホスファチジルグリセロール(PG)のsn-2の位置に特異的に取り込まれることがわかった。

さらに,脂肪酸を膜脂質に取り込む際に働くアシル-ACP合成酵素の欠損変異株では,強光下においてもα-リノレン酸によるPSIIの阻害が起きないことから,PGへの特異的な取り込みが,多価不飽和脂肪酸によるPSII活性阻害の要因であることを明らかにした。

以上のことから,α-リノレン酸のような多価不飽和脂肪酸は,チラコイド膜にあるPGのsn-2位に特異的に取り込まれ,生じた多価不飽和脂肪酸を結合したPG分子種がPSIIを不安定化させて酸素発生複合体を崩壊させることで,強光下においてPSIIの活性を急速に低下させてしまうことがわかった。

この成果は,バイオ燃料の原料となる脂肪酸の増産に寄与するだけでなく,多価不飽和脂肪酸をベースとした農薬,赤潮やアオコの防除薬など,環境負荷の低い機能性分子の創出にもつながることが期待されるとしている。

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