エイブリックと東京工業大学は,超小型衛星搭載用のオーロラ観測用紫外線カメラ「UVCAM」を共同開発した(ニュースリリース)。
東工大は,マルチメッセンジャー時間領域天文学のための飛翔体搭載観測装置の研究開発を2012年から行なっており,特に地上からは観測のできない高エネルギー放射を捉えることをテーマに研究を進めてきた。
例えば,超新星や重力波現象の様に瞬間的に莫大なエネルギーが放出されると,天体表面の温度は瞬時に加熱され,紫外線や軟X線などで光り輝くと考えられている。爆発の瞬間に放射される紫外線をいち早く探索することで未知の天体現象を探し出すために,独自の紫外線天文衛星の開発を計画していたが,紫外線は物質中で吸収されやすく,従来のシリコンセンサではその検出が困難だった。
そこで,エイブリックと東北大学が共同開発した信号差分型の紫外線フォトダイオードにも導入している,紫外線高感度・高耐光性技術を用いたCMOS画像センサを採用した。
この画像センサは,シリコンフォトダイオードの表面高濃度不純物層の構造・形成方法やパッシベーション膜の透過特性を工夫することで,表面照射型センサでありながら,可視光から190nmまでの紫外線に感度を持たせることができる。また,「UVCAM」のセンサ回路開発も,エイブリックが厳しい環境にも耐えられる設計を目指した。
一方,東工大は,地上では通常問題になることのない宇宙放射線の影響を確認するため,放射線耐性を入念に検証した。センサの詳細な性能評価と,宇宙環境での動作を想定した光学系のアライメント・フォーカス調整を行ない,制御ソフトウェアを開発して,大きさ118mmx65mmx60.3mm,重さ433.5gの衛星搭載センサシステム「UVCAM」を完成した。
「UVCAM」は,東工大で開発している可変形状実証衛星「ひばり」に組み込まれ,打ち上げに伴う機械環境試験や,熱真空試験を通過。「ひばり」は,2021年10月1日にJAXA内之浦宇宙空間観測所からイプシロンロケット5号機によって打ち上げられる予定になっている。
今回のプロジェクトは,紫外線での天体観測のための基礎実験として「UVCAM」を用い,高度550~565kmの宇宙空間から300~340nmの近紫外線帯にて,高層大気からの輝線放射や,高緯度地域上空のオーロラからの紫外線などを計測するとしている。