産業技術総合研究所(産総研)は,刺激を加える前には接着力を高め,光や熱を与えた際には接着物を剥離できる解体性プライマーを開発した(ニュースリリース)。
これまでも光や熱の刺激によって接着力を制御する技術は提案されてきたが,多くのエネルギーを必要としたり,高い接着力と剥離性能を両立させることが困難だったりした。
研究では,目的の分子構造として,アントラセンを用い,基材表面にプライマー層を形成するために,基材であるガラス基板と化学的に吸着する末端官能基(アルコキシシリル基)をもつアントラセン誘導体を合成した。
この誘導体に波長405nmの光を照射することで,アントラセンの光二量化を行なった。この二量化させた成分を含む溶液にガラス基板を浸し,乾燥することで,ガラス基板表面に解体性プライマー層を形成した。
次に,プライマー層を形成したガラス基板表面に接着剤を塗布し,柔軟な樹脂フィルムを貼り合わせた試験片を作製し,剥離試験を実施した。接着剤は,プライマーの末端官能基と化学結合する汎用の湿気硬化型接着剤を利用した。
90°剥離試験の結果,プライマー層が接着力の向上に寄与することを確認した。また,剥離後のガラス基板表面には接着剤が残り,プライマー層のない基板では接着剤が残らないことから,プライマー層が基板と接着剤を強く接着させたとわかった。
次に,刺激(加熱・光照射)を加えた際の剥離強度を調べた。温度180℃で1分間加熱した基材では,接着剤はガラス基板表面には残らずきれいに剥離し,さらにその剥離強度は加熱していないものよりも60%低下した。
一方,波長254nmの光で1分間照射してプライマー層中の化学結合を切断したところ,剥離強度は33%低下した。剥離したガラス基板の表面には,アントラセン単量体が確認できたことから,剥離はプライマー部分で進行したことがわかった。
今回使用した光照射のエネルギー(30mJ/cm2)は,これまでに研究グループが開発した光液化-固化型接着剤と比較して5%未満であり,接着力を低減させる手法としては大幅な省エネルギー化を実現した。
プライマー層を形成したガラス基板とプラスチックフィルムを貼り合わせた試験片に重りを吊るす接着力検証試験を行なったところ,180 ℃以上で1分間の加熱により接着強度が低下することが確認できた。
研究は,「加熱や光照射により化学結合が容易に切断できる」という点が新しく,研究グループは接着の分野以外にも,インクの除去といった紙の再生分野や,刺激に応じて表面の摩擦力が変化する表面処理剤としての応用が期待されるとしている。