理研,顕微軟X線分光法で接着接合界面を可視化

理化学研究所(理研)は,大型放射光施設「SPring-8」の高輝度軟X線を用いた「顕微軟X線分光法」によって,炭素繊維強化プラスチック(CFRP)の接着接合界面における化学結合の可視化に成功した(ニュースリリース)。

軽くて強いCFRPの特長を生かした組み立て方法として,接着による接合が期待されている。これまでに力学応答試験などのマクロスケールでの知見は多く蓄積されてきたが,接着強度に影響する分子レベルでの化学状態に関する直接観察の例はなかった。

研究グループは,接着にプラズマ前処理を必要とせず,熱処理のみで接着が可能なエポキシ/エポキシ接着界面の化学状態分布に関する研究を行なった。測定試料として,CFRPの接着接合に着目し,航空機で使用されているCFRP母材とエポキシ系接着剤の接着接合界面に気相化学修飾と顕微軟X線分光を適用することで,CFRP接着界面における共有結合分布を可視化した。

可視化を試みるにあたり,工業用CFRP母材と接着剤を構成する主要官能基を推定し,そこから期待される化学的相互作用モデルを考察した。そして、「接着界面で共有結合が形成されれば,結合に関与する水酸基(OH基)や未反応エポキシ基の信号強度が界面で減少する」という仮説を立てた。

この水酸基(OH基)や未反応エポキシ基の分布を明瞭化するため,これらの官能基を選択的にフッ素修飾できるトリフルオロ無水酢酸(TFAA)による気相化学修飾(R-OH→R-OCOCF3)を接着界面の断面試料に適用し,顕微軟X線分光実験を行なった。

大型放射光施設「SPring-8」の高輝度軟X線を用いた軟X線イメージングを行なった結果,CFRP母材と接着剤に含まれる物質(炭素繊維,マトリックス樹脂,添加剤など)の化学状態を反映した元素分布イメージを取得することに成功し,炭素繊維とマトリックス樹脂との濡れ性を担保するために,炭素繊維に親水性の酸素含有官能基が修飾されていることが示された。

また,CFRPとエポキシ系接着剤では,アミン系硬化剤によって架橋構造が形成されていると考えられ,CFRPとエポキシ系接着剤のエポキシ基の濃度差に依存した界面コントラストが予想通り得られた。この界面領域において,F Kα(OH)信号が減少していることが分かり,事前に仮説を立てた界面共有結合モデルと整合した。

これは,高輝度軟X線による高感度測定によって初めて得られた成果。研究グループは今後,得られた化学状態分布と実際の接着強度(力学特性)との相関を明らかにしていくことで,信頼性ある接着技術の確立にも貢献するとしている。

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