NIMS,光で制御する再生可能な接着剤を開発

物質・材料研究機構(NIMS)は,接着と剥離を何度でも繰り返すことができ,かつ,必要な時には基材と接着剤を元の状態にリセットできる,再生可能な接着剤を開発した(ニュースリリース)。

環境への配慮と経済成長の両立への意識の高まりの中,複数部材からなる成形加工品を原材料に分離・回収する技術が求められている。その中で,使用時には十分な接着力を発揮し,役目が終わると容易に剥離することができる新たな接着方法が注目されている。

そもそも接着と剥離は,矛盾する要素が含まれていることから,強力な接着力と容易な剥離を両立することは困難だった。また,解体できたとしても,基材に接着剤が残ったり,基材が壊れたりすることもあり,マテリアル循環を妨げる要因になっていた。

今回,研究グループは,波長の異なる紫外線を照射することで架橋・脱架橋反応を可逆的に引き起こすカフェ酸に注目。カフェ酸を組み込んだ高分子を基材に塗布したのちに,波長365nmの紫外線を当てると,架橋反応によって不溶化した塗膜(溶剤には不溶のプレコート接着層)となる。

このプレコート接着層はベタつきもなく,暗所・室温で約2年間保管しても性能は劣化しなかった。このプレコート接着層は室温で保存している状態では接着性を示さないが,加熱することで接着と剥離を何度でも繰り返すことができる。

実際,フッ素樹脂,シリコーン樹脂,ポリエチレンや,アルミニウム基板などを強固に接着させることができた。さらに,剪断試験後の試料片を再び加熱すると,接着力は初期の接着強度と同等まで回復し,この操作を30回以上繰り返しても,その性能に変化は見られなかった。

使用期間が終わった際には,波長254nmの紫外線を照射することで,架橋した部分が開裂し,塗布前と同じ状態にリセットされることで,接着剤と基板の両方を回収,再利用できるようになる。

これまでにも光を使って接着・脱着を制御した例はあったが,使用できる基板がガラスなど透明なものに限定されるのに対し,今回のプレコート型接着剤は,塗布面上部から光を照射するため,基材の制約を受けない。

カフェ酸の化学構造に含まれるカテコール基は,付着生物であるムラサキイガイが分泌する接着成分にも多く含まれており,フッ素樹脂や水中での接着など,一般的な接着剤が苦手とする基材や使用環境においても,強力な接着力とリサイクル性を発揮したという。

研究グループは今後,マテリアル循環を指向したものづくりに貢献する接着剤として,電子機器や輸送機器,医療機器,インフラ補修など様々な用途に展開していくとしている。

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