東北大学の研究グループは,実験制御で推奨されるPython言語環境を用いて,近年主流のVR HMDにおける刺激呈示精度を解明した(ニュースリリース)。
0.01秒単位の遅延が,研究データに大きく影響するため,一般的な知覚認知研究では,実験参加者に視覚刺激を呈示(映像などを見せること)する際に,CRTや低遅延ディスプレーが使用される。
聴覚刺激を呈示する(音などを聞かせること)際も同様に,低遅延のヘッドフォンやスピーカーが使用されており,遅延時間がほぼ0秒の厳密な実験が行なわれている。
一方,VR研究で使用されるHMDは,通常の液晶ディスプレーなどのように表示遅延などが公開されていない場合が多く,これら頑健な研究環境と同等の正確性と精度を持つかは不明確であり,VR実験環境構築の指標となる具体的な刺激呈示時間の正確性や呈示遅延時間が実証されていない。
2D環境における心理学実験ではPython言語による専用ソフトウェア環境が充実しており,刺激呈示も高い正確性と精度を持っている。一方,VR実験はUnityやUnreal Engineなどのゲーム開発エンジンによる制御が多く,従来の行動科学研究のように,共通したソフトウェアやプログラム言語環境下での刺激呈示や比較が未実証な問題もあった。
研究では,VR HMDにおける視覚刺激呈示の正確性と精度について,Python言語による実験制御用環境を用いて体系的に精度実証を行なった。実験では,HMDによる視覚・聴覚・視聴覚刺激における呈示時間や呈示遅延を,測定専用機器を用いて測定した。
実験の結果,視覚刺激呈示では一貫して約20ms(0.02秒)の遅延が生じる一方,聴覚刺激呈示では約40〜60ms(0.04〜0.06秒)の遅延が生じることが判明したという。聴覚に関しては,使用するVR HMDによって大きく精度が変化することが判明した。
これらの呈示遅延は視覚と聴覚刺激の同時呈示においても同様であり,例えVR HMD上で視覚と聴覚刺激を同時呈示するようプログラムした場合でも,視覚と聴覚刺激呈示の間には約20ms〜40ms(0.02〜0.04秒)のズレが生じると判明したという。またこうした遅延やズレは,プログラム上の呈示方法で約5ms(0.005秒)まで修正できることも提案した。
研究で解明した精度は,今後のVR研究における精度指標値となる重要性があり,より正確な研究データを得るため大きな鍵となるとしている。