富士経済は,LED照明器具がけん引することで拡大を続ける世界市場,いち早くフローベースでのLED化率が100%に達したことで,今後はストックベースにおけるLED化率の上昇を目指す国内の照明市場を調査し,その結果を「変革する照明関連技術・市場の現状と将来展望 2021年版」にまとめた(ニュースリリース)。
それによると,2020年の世界市場は,新型コロナウイルス感染症の感染拡大に伴う経済の停滞や建築需要の減少に伴い,縮小した。地域別にみると,アジア地域が市場の50%近くを占めており,人口増加や都市化に向けたインフラ整備が進む中国やインドなどを中心に需要が増えることで,2025年の世界市場は7兆6,298億円を予測し,LED化率は82%まで上昇するとみる。
今後,製造コストの低下や世帯数の増加,スマートシティ化への取り組み,政府主体の規制などを背景に,LED照明器具の普及が進んでいくとみる。特に,欧州やオーストラリアでは従来ランプの取り扱いを規制する動きがあり,今後LED化に向けた動きが加速すると予想する。また,新興国においてもCO2排出量やエネルギー消費量の削減を目的に,政府が主体となった導入が進んでいるという。
2020年の国内市場は,5,567億円となった。世界市場と同様,新型コロナによる経済停滞,建設需要の減少に伴い縮小し,前年比7.7%減となったとする。特に店舗やホテル・宿泊施設などの需要減少が大きかったという。
LED化の流れは2010年頃から始まり,東日本大震災に伴う電力の安定供給に対する不安により,急速に需要が高まった。2013年頃から光源一体型ベースライトや高天井照明器具などのLED照明器具が展開され,2010年代後半にはLED照明器具の採用がさらに進んだことで市場はピークアウトし,参入プレーヤーの撤退や事業再建,買収・統合など業界再編の動きが目立つようになった。
現時点で,フローベースのLED化率は100%に達している。元々2020年以降は建設需要の減少が予想されていたことに加え,2010年代に急速に普及しLED化需要を先食いしたことや,従来型ランプより長寿命であることによる交換頻度の減少などにより,今後も市場縮小が続くとみる。
なお,LED照明の普及が急速に進む前の2010年の照明器具の市場規模は4,500億円程度であり,当時LED照明は高価格であったことから,LEDの普及に伴い市場が拡大した。しかし,前述のような照明自体の需要の減少やLEDの低価格化により,長期的には,2010年の照明器具市場を下回る規模で落ち着くとみている。
また,新型コロナの感染拡大以降のニューノーマルにおいて,テレワークの普及やEC購買増加によるビルや店舗の利用率の低下や,空間の在り方の変化に伴う従来とは異なる形状・仕様の有機ELやレーザーなど照明製品の広がりなども縮小の一因になるとしている。
■次世代照明/ソリューションの国内市場
フローベースのLED化率が100%となったことで,照明市場の今後の方向性としては,ストック照明のLED化と照明制御やソリューションによる照明の高度化・高付加価値化をどのように実現,普及していくかが注目されるという。
付加価値の高い照明としては,つながる照明や人にやさしい照明,さらには照明によるアプローチで課題解決に貢献するソーシャルソリューションライティング【社会の課題(影)をてらす照明】などであり,特に,これらが重複した領域が有望とみる。
・つながる照明【CSL:コネクテッドスマートライティング】
つながる照明の市場は,2020年で946億円となった。新型コロナの感染拡大の影響もみられたが,新たに需要が創出されたことから,わずかながら拡大したという。
市場は照明制御ソリューションが中心であり,新築や大規模改修案件は有線式,中小規模やリニューアル案件は無線式の採用が進んでいる。また,近年ではオープンプロトコルのDALI規格を用いた制御が一定の市場を確立しているほか,標準品と制御ソリューション対応品の価格差も小さくなり,調光・調色機能の標準化と高度化,カメラやセンサーなどとの連携も増えているという。
照明プレーヤーは照明にほかの機能を追加する「照明+α」の視点で商品を展開するケースが多い中,異業種プレーヤーが「テレビを代替する,プロジェクター+照明」「カメラ+照明」「通信+照明」など既存商品に照明機能を新たに追加する「α+照明」の視点で商品開発を進めている。映像演出ライティングソリューションとカメラ機能付照明ソリューションなどで新たな需要を獲得しており,市場開拓が進んでいるという。
・人にやさしい照明【HCL:ヒューマンセントリックライティング】
人にやさしい照明の市場は,2020年で217億円となった。市場の大半を占める建築化・空間演出ソリューションと景観演出ライティングソリューションが新型コロナの影響により大きく落ち込み,前年比8.8%減と大きく縮小した。一方で,紫外線空間殺菌ソリューションは新型コロナの感染対策として注目されたことで導入が進み,急速に拡大したという。
今後は,新型コロナが収束に向かうことにより,2020年に縮小した市場は緩やかに回復していくとみる。一方で,新型コロナを受けて需要が高まった,あるいは新たな需要がみられた市場については,ピークが過ぎ一時的に落ち込むものの,以降はニューノーマルのソリューションとして堅調に推移するとみている。
また,調査報告書では下記ソリューションの国内市場について注目した。
●映像演出ライティングソリューション
映像投影機能付照明を対象とした。イベントの映像演出を行なう企業がコンテンツの制作などを行なっているほか,照明プレーヤーを中心に“あかり”の提供に加え,付加価値として映像演出可能なシステムを搭載した製品を展開している。
これまでの導入先は,ホテル,レストラン,店舗・複合商業施設,ショールームなど非住宅分野が中心であったが,2020年は新型コロナの感染拡大による設備投資抑制の影響から苦戦しているという。一方,住宅向けでプロジェクター機能付シーリングライト「popIn Aladdin」(popIn)が,巣ごもり需要を背景に好調であり,今後も市場をけん引していくとみる。
●カメラ機能付照明ソリューション
カメラ機能付照明は,照明器具やランプとカメラが一体化した製品であり,カメラの配線工事が不要なため,導入しやすいメリットがある。鉄道車両内における犯罪行為の未然防止を目的として,JR東日本や東急電鉄大井町線,東京モノレールで採用されており,防犯カメラを設置するよりも,安価で簡易に取り換え可能であることから,2018年頃から市場が拡大しているという。
現在は関東圏を中心に導入が進んでいるが,2025年に大阪万博の開催が予定されていることから,今後関西圏においても導入が進むとみている。また,鉄道車両向け以外では,工場・倉庫や病院,スーパーなどで導入されており,画像認識や監視システムなどでの需要取り込みも期待されるとする。
●紫外線空間殺菌ソリューション
調査では,深紫外線で空間を殺菌する照射殺菌装置と照明器具を対象とした。
以前からUV‐Cによるウイルス対策の有用性は認められていたが,利用シーンや安全性の確保がネックとなり,市場は限定的であった。しかし,2020年に新型コロナの感染が拡大して以降,有用性のある技術として注目されたことで,急速に商品開発が進んだという。
一方で,紫外線殺菌というキーワードだけが先行し,効果が不明瞭な商品も市場に流通している。今後ガイドラインなどが策定されることで,実証効果が明確な商品が市場に定着していくとみる。
【照射殺菌装置】
従来,室内環境の清浄化を目的に,清潔かつ快適な環境が求められる食品工場や医療施設など向けに展開されていたが,新型コロナ対策の商品として,店舗やオフィスなど幅広い分野で需要が高まり,2020年の市場は前年比13.0倍の26億円となったという。2021年に市場はピークを迎え,2022年には一時的に落ち込むものの,ニューノーマルのソリューションとして定着していくことで,拡大を続けるとみる。
【照明器具】
以前から低圧水銀ランプを用いた製品はあったが,安全性に課題があり無人環境下での使用に限定されていたことから,2020年の市場は僅少だった。しかし,2020年にウシオ電機が有人環境下においても使用可能な光源「Care222」を開発し,それを搭載した商品が2021年の1月に発売されたことから,2021年の市場は急速に拡大するとみる。2024年以降はランプのリプレース需要により,安定した市場推移を予想している。