KDDI総合研究所と大阪大学は,MIMO(Multiple-Input Multiple-Output)信号処理方式を用いたリアルタイムでの光信号処理技術を開発し,既存光ファイバと同じ外径を有する標準外径結合型4コア光ファイバで,伝送距離がこれまでの120倍となる7,200kmリアルタイム光伝送実験に世界で初めて成功した(ニュースリリース)。
従来の光ファイバ(単一コア・単一モード光ファイバ)通信の限界を打破する技術として,光ファイバの中に複数のコアを設けるマルチコア光ファイバといった「空間分割多重」技術の研究開発が世界的に取り組まれている。
これまで,結合型マルチコア光ファイバ光伝送の研究開発では,それぞれのコアから取り出した光信号を電気信号に変換して測定器で一度ストレージに蓄積した後,別途用意したコンピューター等を用いて蓄積したデータを読み出し,CPU上で時間をかけてMIMO信号処理を行なうオフライン信号処理方式による伝送特性の評価が行なわれていた。
しかし,オフライン信号処理方式では,それぞれのコアから取り出した光信号の極めて一部の時間だけしか元のデータへ戻すことができないために,実用化に向けてリアルタイム信号処理の実現が求められていた。
今回,研究グループは,NECプラットフォームズとの連携によりリアルタイムMIMO信号処理方式を開発し,波長多重DP-QPSK信号を用いて結合型4コア光ファイバ7,200kmのリアルタイム光伝送実験に世界で初めて成功し,結合型マルチコア光ファイバを用いた光伝送距離の世界記録を120倍更新した。
今回開発したリアルタイムMIMO信号処理方式は,これまでCPU上で行なっていたMIMO信号処理アルゴリズムを,光トランシーバに接続した複数の集積回路(FPGA)上に並列演算として実装した。
更に長い距離の光ファイバ伝送を実現するために用いられる光ファイバ周回伝送において必要となる,光信号の周回周期とMIMO信号処理の時間同期を高精度に行ない,7,200kmに及ぶ長距離伝送においても,リアルタイムにデータ取得が可能になった。
今後,空間分割多重光信号伝送の実用化に向けては,安定な運用のためのさまざまな技術開発が求められるが,研究グループは今回の成果を活用することにより,これらの開発が加速されることが期待されるとしている。