名古屋大学の研究グループは,磁性体において,様々な物理学分野で存在が予測されてきた「ドメインウォール・スキルミオン」と呼ばれる状態の観測に成功した(ニュースリリース)。
秩序化した領域同士の境界に現れる「ドメインウォール」は,代表的な「欠陥」の一つとして知られている。例えば,磁性体中では磁気モーメントが揃った微小な領域に幾つも分かれており,隣接する磁区と磁区の境界である「磁壁」が「ドメインウォール」となる。
磁壁は電流で駆動できることから,メモリなどへの応用が期待されている。さらに,「スキルミオン」と呼ばれる「欠陥」も知られている。「スキルミオン」は,元々,素粒子物理学で提唱された粒子的な性質を持つ渦状の「欠陥」であり,磁性体中の「スキルミオン」は,磁壁と同様に電流によって駆動し,駆動に必要な電流密度の閾値が磁壁に比べて5桁も小さいことから,省エネルギーのデバイスへ向け研究されている。
一方,「ドメインウォール・スキルミオン」と呼ばれる「欠陥」が理論的に提唱されてきた。これは「欠陥中の安定な欠陥」と見なせるもので,「ドメインウォール」中に「スキルミオン」が存在,もしくは「スキルミオン」が1次元状に配列して「ドメインウォール」を構成したものを指す。「ドメインウォール・スキルミオン」は1999年に量子ホール強磁性体において理論的に予測されたが,明確に観測されたことはなかった。
研究では,ローレンツ電子顕微鏡を用いて,コバルト・亜鉛・マンガンで構成される磁性薄膜試料の磁気構造を調べた。この磁性体は,室温以上でスキルミオン三角格子(スキルミオンが三角格子状に規則配列した状態)が現れる物質として知られる。今回,約50nmまで薄くした薄膜試料を対象とした。
得られた磁束密度分布像から,磁区と磁区の境界に鎖状に配列した「スキルミオン(渦状の楕円体)」が観測された。つまり、「スキルミオン」が磁壁の役割を担っており「ドメインウォール・スキルミオン」の存在が実証された。また,通常の磁壁中に孤立した「スキルミオン」も観測した。
今回観測された「ドメインウォール・スキルミオン」の形成機構から,シミュレーションによって,「ドメインウォール・スキルミオン」が様々な磁性体で現れる可能性が見い出された。
磁性体中の「ドメインウォール・スキルミオン」は磁壁に沿って電流駆動することから,カーブした軌道を描き「スキルミオン」デバイス応用の障害の一つとなっているスキルミオン・ホール効果を抑制し,さらに,磁区を制御することで「スキルミオン」の駆動経路を設計できる可能性があるとしている。