京大ら,光合成活性を迅速に測定する装置を開発

京都大学,茨城大学,大学シーズの商品化を行なうマサインタナショナルは,植物の葉の光合成活性を従来に比べて飛躍的に効率よく測定する測定装置を開発した(ニュースリリース)。

現在主流となっている開放系による個葉光合成測定は,対象となる葉を一定体積の空間(同化箱)に配置し外気を循環させつつ,同化箱に入る前後でのCO2濃度変化から個葉光合成速度を算出する。

開放系では複数のCO2センサーや空気を循環させるためのポンプが必須となり,必然的に装置が複雑化しやすくなる。さらに,CO2濃度の安定に時間を要するため,1枚の葉の測定に数分以上の時間を要するという制約があった。

研究では,開放系とは根本的に異なる原理として閉鎖型システム(閉鎖系)に着目。閉鎖系では,同化箱内に測定対象となる葉を配置するところまでは同一だが,開放系と異なり外気を循環させない。同化箱内のCO2濃度は,光合成により消費されることで急激に低下する。この低下率から個葉光合成速度を算出する。

閉鎖系のメリットとしてはまず,葉によるCO2吸収を直接検知するため,開放系のようにCO2濃度の安定を待つ必要がなく,理論的には数秒以内での迅速な測定が可能。さらに装置の構造が単純であり,小型化・低価格化が容易であるうえ信頼性の向上も期待される。

一方,迅速な測定を実現するためにはCO2の濃度変化をリアルタイムで検知する高性能なセンサーが必要。閉鎖時間が長いと同化箱内のCO2濃度が大きく低下して測定葉に悪影響を与えるため,時間応答性のよいCO2センサーが必要となる。

携帯型の光合成測定装置には,比較的小型なNDIR(非分散赤外吸収法)方式のCO2センサーが用いられてきたが,リアルタイムにCO2濃度変化を検知できなかった。今回,ほとんどタイムラグなしにCO2濃度変化を検知できるNDIRセンサーを新規に考案した。

このセンサーを組み込んだ新型光合成測定装置「MIC-100」を開発し,イネとダイズを対象に実証実験を行なったところ,個葉光合成速度を理論通りわずか数秒以内に算出可能であることが示された。実際には,測定葉の選定や同化箱への葉の固定,あるいは圃場内での移動やデータ入力などの時間が発生するが,これらを計算に入れても1サンプル当たり30秒以内での測定効率を実現した。

これは,従来の開放系に基づいた装置と比較し,数倍から10倍程度の測定効率向上を達成したことになるという。精度の面でも,現在広く研究目的で使用されている光合成測定装置と同等であり,実用上充分な正確性を有していることが実証されたとしている。

その他関連ニュース

  • 東北大ら,光合成を最適化するイオン輸送体を解明 2024年11月12日
  • 【解説】動物細胞ながら,光合成もできるプラニマル細胞とは 2024年11月11日
  • 帝京大ら,緑藻の群体増殖には光照射が必須と解明 2024年10月04日
  • 早大ら,光合成微生物で培養肉向け細胞培養機構開発 2024年10月04日
  • 東薬大,シアノバクテリアのストレス順応応答を発見 2024年10月03日
  • 公大,藻×酵母の光合成を利用した排水処理に知見 2024年10月02日
  • 公大ら,人工的な光合成アンテナの構造解析に成功 2024年10月01日
  • 理研ら,光が分裂組織の再生を制御する仕組みを解明 2024年10月01日