大阪大学の研究グループは,パーフルオロ化合物のある特定の炭素-フッ素結合のみを選択的に切断し,他の官能基へと変換する新しい有機反応の開発に世界で初めて成功した(ニュースリリース)。
含フッ素化合物は医薬品や農薬,機能性樹脂,有機電子材料などに幅広く実用化されている。特に,複数の炭素-フッ素結合を有するパーフルオロ化合物は熱的および化学的に高い安定性を有し,撥水撥油性や耐薬品性などさまざまな優れた性質を有するために注目されている。
また,炭素-フッ素結合は化学結合の中でも特に強く,その変換反応は有機化学の重要な課題として世界中で研究が行なわれている。しかし,パーフルオロ化合物中の中に多く含まれる炭素-フッ素結合で,特定の炭素-フッ素結合のみを変換し,より高付加価値の有機フッ素化合物へと導くことは非常に困難だった。
今回,研究グループでは,光触媒であるイリジウム錯体と有機スズ化合物を協働させることで,安価・安全な可視光を照射するだけの温和な条件下において,パーフルオロ化合物のベンジル位の炭素-フッ素結合を選択的にアリル基へと変換できることを発見した。
温和な条件での反応達成が実現したことによって,パーフルオロ化合物中に多く存在する炭素-フッ素結合の無作為な位置での活性化が抑えられ,狙った特定の箇所だけでの変換を達成できたという。実験的手法と理論化学的手法の両面からこの反応の解明を試みたことで,光触媒と有機スズ化合物の協働作用が反応の進行に非常に重要な役割を担っていることを明らかにした。
特に,有機スズ化合物が不安定なラジカル中間体の捕捉とルイス酸としてフッ素を捕捉するという2つの役割を果たしていることが注目すべき点であり,今後の炭素-フッ素結合の変
換反応の研究を進める上で大変意義のある知見となったとする。さらに,この手法を用いることにより,医薬品として有望な化合物のフッ素置換類縁体の合成にも成功した。
フッ素は医薬品において重要な元素であり,多くの低分子医薬にフッ素原子が含まれている。研究グループは今回の成果により,これまで合成不可能であった高付加価値パーフルオロ化合物が簡便かつ短工程で合成できるようになったことから,含フッ素医薬の創薬シード化合物におけるライブラリの拡大につながるとしている。