名古屋大学の研究グループは,パラジウム酸鉛に鉄とリチウムを少量,共置換することによって室温から400°C以上の高温でも磁石を示す材料「強磁性半導体セラミックス」を発見した(ニュースリリース)。
磁石の性質と半導体の性質をあわせ持つ「強磁性半導体セラミックス」は,次世代半導体技術であるスピントロニクスの基盤材料として注目されている。これまでも室温で動作する「強磁性半導体セラミックス」の報告はあったが,そのほとんどは極薄膜試料での報告であり,磁石としての反応が小さく,それが析出した不純物によるものではないかという疑問が報じられている。
今回研究グループは,鉄(Fe)5%,リチウム(Li)2%をパラジウム(Pd)サイトに置換した試料「強磁性半導体セラミックス(PbPd0.93Fe0.05Li0.02O2)」が,室温で低い磁場で急峻に立ち上がり,リチウムあたり1ボーア磁子程度の大きな磁化が得られた。これは従来の理論では説明できないほど高い強磁性転移温度となる。
一方,リチウムが入っていないPbPd0.95Fe0.05O2においては,磁化はほとんどゼロだった。磁性元素である鉄が入っているにもかかわらず,ほとんど磁性が表れていないこと,非磁性元素であるリチウムが共に入ることによって強磁性が表れていることは,これまでの磁性半導体では見られない特異な状態だという。
発見したこの材料は,グラム単位のセラミックス試料であり,室温で永久磁石に吸い付く。少量の鉄だけを置換した試料はほとんど非磁性であり,少量のリチウムをさらに置換したとたん強磁性が発現する。これは従来知られている理論では説明できない,全く新しいタイプの「強磁性半導体セラミックス」の可能性を示すもの。
研究グループは,この強磁性のメカニズムを明らかにすることによって,より省電力でより高速な電子機器が開発され,持続可能な開発目標の達成への貢献が期待されるとしている。