千葉大,大気汚染を長期リモートセンシング

千葉大学の研究グループは,世界に先駆けて地上リモートセンシングにより大気境界層(PBL)中のオゾン(O3)とそれが生成される前段階となる気体(前駆気体)の濃度を同時に観測する技術,MAX-DOAS法を開発し,7年に及ぶ長期連続観測を実施した(ニュースリリース)。

短寿命気候汚染物質のひとつである対流圏(PBLを含む)中のオゾン(O3)は,化石燃料の燃焼等の産業活動に由来する前駆気体である窒素酸化物(NOx=NO+NO2)や揮発性有機化合物(VOCs)から生成し,光化学オキシダントとして人体や植物に悪影響を及ぼすため,その濃度の減少が求められている。

研究グループが開発したMAX-DOAS法(Multi-Axis Differential Optical Absorption Spectroscopy)は,NO2等の⼤気汚染物質の⼤気中カラム濃度と鉛直分布データを得るための地上設置型のリモートセンシング装置またはその技術。

複数の仰角で紫外から可視域の太陽散乱光(300-500nm)を観測し,その光の到達経路や高度層ごとの光路長の違いからエアロゾル・ガス成分の鉛直分布/対流圏積算量を連続的に算出する。

研究グループはまず,米NASAの人工衛星搭載センサーOMI(地表や⼤気で散乱される太陽光の可視領域を分光することで,NO2等の⼤気汚染物質の⼤気中カラム濃度を測定するセンサー)による観測データを解析したところ,2013年~2019年の7年間に中国を含む東アジアの対流圏中のNO2量が急激に減少していたことを明らかにした。

これは,これまでO3の濃度が有意に減少しない原因として指摘されてきた,中国大陸から日本への越境汚染の影響が抑制されていた,或いは,ほとんど変化しなかったことを示唆するという。

さらに研究グループは,千葉市とつくば市において2013年より7年に及ぶ長期連続観測を実施し,年々の濃度変動傾向を定量的に調べた。千葉市では4台のMAX-DOAS装置をそれぞれ異なる方位に向けた同時観測を行ない,精度を高める工夫を施した。

すると,千葉市においてO3の前駆気体の濃度は年率6~10%の速度で急激に減少していたが,O3の濃度には有意な減少は認められないことが明らかになり,O3濃度の減少にはさらなる前駆気体の濃度の減少が不可欠で,一層の国内の大気汚染対策が必要であることが示されたという。

研究グループは,大気汚染対策を進めることは脱炭素化を促進し,温暖化対策に貢献するといったコベネフィットが期待されるとしている。

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