筑波大ら,リモートセンシングでヒノキの蒸散量予測

筑波大学,京都大学,名古屋大学は,衛星リモートセンシング技術と森林調査データを組み合わせ,これまでより高い精度でヒノキ林の蒸散量を予測できる新モデルを開発した(ニュースリリース)。

森林は緑のダムと呼ばれる。水を地面に浸透させ,地下水を涵養する機能を持っているから。しかし,日本では近年,間伐などの手入れが行き届かずに過密化した人工林が問題となっている。

こうした人工林では蒸発散によって水分が大気中に放出され,相当量の地下水資源が失われていることが指摘されている。日本のような森林の豊かな地域では,特に樹木からの蒸散(Et)が大きな割合を占めている。Etを広域かつ正確に把握できれば,人間が利用可能な地下水量を可視化し,渇水時には計画的な地下水利用が可能となる。

そこで研究グループは,単一樹種で構成されているヒノキ人工林を対象に,Et推定モデルを開発した。これまでのモデルより正確にEtを推定するため,気象学的な蒸散(Etbase)と植物生理学的な蒸散(Etleaf)を考慮し,これらを組み合わせた。

また,予測値と比較する実測データとして,全国4地点で得られた樹液流量データ(SF)を利用した。これは,樹木の中に流れている水の量を計測するもので,Etの実測値として広く利用されている。

森林調査データ(FI)は各樹種の生育範囲と樹齢データが記録されたもの。研究では,群馬県桐生市におけるFIデータと衛星画像を利用することで,ヒノキ林の活性度と葉の面積を衛星から推定できる指標の開発を試みた。

唐沢山において,気象学的な影響が強くなる冬季のEtは,衛星から得られた表面温度と高い相関関係があることが分かった。また,植物生理学的な影響が強くなる夏季においてSFは,葉の面積と植生活性度の積と高い相関関係がみられた。

EtbaseとEtleafは,空気密度,近赤外域における反射率,可視光緑・赤の反射率を用いた正規化指標を用いて定義した。これらのデータは衛星画像から取得できる。また,近赤外,可視光緑,赤の反射率はマルチスペクトルセンサーを用いて得ることができる。

これらデータは,比較的安価で,一般向けのものが数多く販売されているセンサーで取得できる。そのため,衛星だけでなく,ドローンなどの近接リモートセンシングにも応用しやすくなっているという。

この研究成果は他の樹種のEt推定にも応用できる可能性があることから研究グループは,このモデルが樹種ごとのEtをより詳細かつ正確に推定するための貴重な手法となり,森林管理の効率化と精度向上に貢献することが期待されるとしている。

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