東大,硬さが異なる材料界面の熱伝導に知見

東京大学の研究グループは,軟らかい銅と硬いダイヤモンドの界面を自己組織化単分子膜で結合し,硬さの大きく異なる2つの材料の界面においては,結合が強い場合よりも,弱い結合の場合のほうが,熱伝導度が高くなるという非直感的な現象を明らかにした(ニュースリリース)。

軟らかい母材と高熱伝導率の硬いフィラー材から構成される複合材料は,高い熱伝導率と実装性を合わせ持つことで,パワーエレクトロニクスの放熱に使われている。しかし,フィラーと母材の界面に熱抵抗が生じるため,フィラーの高い熱伝導率が活用しきれていない。

界面の熱伝導を向上するには,界面の結合を強くすることが直感的であり,そのようなアプローチが従来からとられてきた。しかし,界面の熱の輸送が格子振動の伝達あるいはフォノンの透過であることを考えると,結合以外の決定因子を見出し,新たな設計性に繋げることが重要となる。

研究グループは,ダイヤモンド基板表面に自己組織化単分子膜を成膜し,その上に銅を蒸着する実験系において,自己組織化単分子膜の分子の末端官能基を変えることによって界面の結合強度を変化させながら,時間領域サーモリフレクタス法により界面の熱伝導度を系統的に計測した。

その結果,弱いファンデルワールス力で結合した界面のほうが,強い共有結合で結合した界面よりも,高い熱伝導度を示すことを発見した。一方,基板をシリコンなどのダイヤモンドよりは軟らかい材料に変えると,その傾向は消失し,結合が強いほうの熱伝導度が大きくなることも確認した。

さらに,他の材料の基板を用いた実験や分子動力学シミュレーションによる解析を行なうことで,その機構も明らかにした。2つの材料の硬さが大きく異なる場合は,結晶格子の振動数が大きく異なるため,結合の弱さよりも,格子振動が伝わりにくいことが熱抵抗の主要因となる。

そこでの自己組織化単分子膜の役割は2つの材料の振動を「橋渡し」することだが,その際,界面の結合が弱いほうが自己組織化単分子膜の格子の振動数が2つの材料の中間的な値となり,橋渡しをしやすくなることがわかったという。

軟らかい母材と硬いフィラーから成る高熱伝導複合材を開発する際に,界面の結合をあえて弱くしたほうが複合材の熱伝導率が高くなるという,従来とは大きく異なる設計指針が,高熱伝導複合材料の性能向上に寄与することが期待されるとする。また,学術的には,さまざまな固体界面での熱伝導の制御性を考える上での1つの指針になるとしている。

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