日本電信電話(NTT)と東京大学は,縮退光パラメトリック発振器(DOPO)を用いて,神経細胞の発火信号(スパイク)を模擬する人工光ニューロンを作成することに成功した(ニュースリリース)。
一般に,ニューロンの発火ダイナミクスは,その外部刺激への応答に基づき,ホジキンの分類と呼ばれる大きく2つのクラスに分類される。
研究で用いた人工光ニューロンは,2つのDOPOパルスを用いて実現した。スパイク信号の実現には,逆符号となるように調整された2つのパルス間の光結合と,DOPOに組み込まれた位相感応増幅器の持つ非線形効果が重要な役割を果たす。位相感応増幅器の非線形効果は注入するポンプ光強度によって制御できる。
このDOPOニューロンは,2種類両方の発火モードを,この注入するポンプ光強度の調整という単純な操作で自在に制御可能な特性を有することが分かった。この発火モードの制御を通して,脳型情報処理の重要なパラメータである人工ニューロンの発火頻度を調整することが可能となる。
また,一般的なニューラルネットワークでは,1つのニューロンに1つの発火モードが固定で割り当てられているのに対して,このような発火モードを自在で柔軟に制御できるDOPOニューロンの特性は新しい脳型情報処理への応用が期待できるという。
特に,ホジキンの分類は単純明快な分類であるにも関わらず,発火モードの差異が情報処理に与える影響は神経科学的にも未解明な点が多いため,この謎に挑むための新たな研究のプラットフォームとなることも期待される。
研究ではさらに,240個のDOPOニューロンのネットワークを構築し,集団となったDOPOニューロンの同期現象の観測を行なった。その結果,DOPOニューロンは結合したニューロン間の同期を反映して,各々の発火モードを自発的に変化させる性質を持つことを発見した。
この自発的変化は,ニューロン単体ではなくその集団が同期によって獲得する特性であり,ポンプ光などのパラメータ調整を必要とせずに集団の同期を促進するように発火モードが自動的に変化する協同現象を意味する。
この研究で発見されたこの発火モードの自動調整機能は,同期という物理現象がまるで計算機におけるアルゴリズムのように発火頻度を動的に調整することを意味しており,発火モードの多様性が脳型情報処理に大きな影響を与えることを示唆するという。
また,研究グループは,発火モードを自在に制御できる集団としてのDOPOニューロンは,さらに効率の良い脳型情報処理へ応用できることが期待されるとしている。