千葉大学の研究グループは,ラセミ体の有機化合物の飽和溶液に,照射された物体に捻れを誘起させる力のあるキラル渦光を照射することにより,鏡像異性体の片方のみを高い純度で選択的に得ることに世界で初めて成功した(ニュースリリース)。
鏡像異性体の片方だけを創り分ける(不斉を制御する)ことは,物質科学の課題とされている。生物を構成するタンパク質やDNAなどの生体分子は,鏡像異性体の片方だけである(生体分子のホモキラリティー)ことが解明されているが,なぜそのように片方のみに偏っているのかは明らかになっていない。
この生体分子のホモキラリティーの起源については,超新星爆発の時に発生した円偏光によってラセミ体アミノ酸が不斉分解され,隕石として地球にもたらされたとする説がある。しかし,不斉の偏りはほんの僅かであり,現在の生体分子のホモキラリティーを説明するには他に不斉を増幅する機構が必要なはずだが,その仕組みは未解明となっていた。
研究グループは,照射された物体に捻れを誘起させる力のあるキラル渦光が,結晶核の不斉を制御できるのではないかと予想して研究を行なった。また,僅かな不斉の偏りを光学的に純粋な化合物へと不斉増幅する手法として,結晶化誘起動的光学分割法を利用した。
キラル渦光をラセミ体のイソインドリノンの過飽和溶液に照射したところ,暫くすると結晶核が形成され,その後撹拌することで,溶液中では化合物のラセミ化を伴いながら,生成した結晶核を基に多くの結晶が析出した。その結晶を分析したところ,右回りの光渦(L=+1)を照射すると(S)-体の化合物が光学的にほぼ純粋な結晶として得られ,左回りの光渦(L=-1)を照射すると(R)-体の結晶が選択的に得られることを発見した。
キラル渦光によってラセミ体から片方の鏡像異性体の結晶核の形成を誘起し,その核をもとに容器内のほぼ全ての分子を不斉増幅することに成功した。
今回世界で初めて,キラル渦光が結晶核形成の不斉制御に影響を与えることを発見し,結晶化による動的不斉増幅との融合により,高い光学純度の不斉分子の選択的創成に成功した。この成果は,今後のキラル光を用いた不斉制御法の開発や生体分子のホモキラリティーの謎に迫り生命の起源を解明する上で大きな一歩だとしている。