東工大ら,優れた円偏光発光特性のらせん状分子合成

東京工業大学と東京大学は,優れた円偏光発光特性を示す,3次元状に共役系の広がったヘリセンの不斉合成を達成した(ニュースリリース)。

芳香環がらせん状に縮環した化合物であるヘリセンは,らせん構造に由来する特異なキラル特性を示すことから注目されている。その中でも,らせん状の発光である円偏光発光特性について,ヘリセンは他のキラル有機分子に比べて比較的高く,3Dディスプレーをはじめとした次世代エレクトロニクス材料への応用が期待されている。

優れた円偏光発光の発現にあたっては,①円偏光度(非対称性因子g),②発光輝度(モル吸光係数ε,蛍光量子収率Φ)が重要であり,これらを両立するキラル有機分子の合成が求められている。しかし,ヘリセンの発光輝度は低く,また円偏光度も向上の余地があることから,円偏光発光材料への応用の課題となっていた。

これに対し,3次元状に共役系を拡張したヘリセンである3Dπ拡張ヘリセンは,高い発光輝度と円偏光度を兼ね備えた分子群として近年注目が集まっているが,その構造から合成難易度が高く,報告例はいまだ限定的であった。そのため,このような高ゆがみらせん状分子の汎用的な不斉合成手法の開発およびキラル光学特性の解明が求められている。

そこで研究グループは,優れた円偏光度と発光輝度を両立させる分子群として,3次元状にπ共役系を拡張したヘリセン(3Dπ拡張ヘリセン)に着目し,その高度にゆがんだπ共役系を構築するための新たな合成法として,①らせん構築に有利な遷移金属触媒を用いた付加環化反応,②高ゆがみ構造の構築に有利な酸化的環化反応,の2種類を段階的に組み合わせる合成手法をデザインした。

そして,らせん構築に不斉ニッケル触媒反応を用い,高ゆがみ構造の構築にScholl反応を用いることで,多層構造を有する3Dπ拡張ヘリセンの不斉合成を達成した。さらに,合成した分子は,キラル有機分子の中でも格段に優れた円偏光特性を示すことを見出した。

合成したヘリセンの発光輝度および円偏光度は,キラル有機分子の中でも優れた値を示し,なかでも3Dπ拡張ヘリセンについては,円偏光発光特性の評価指標である円偏光発光輝度(BCPL)は最大で513とヘリセン誘導体における最高値を示すことが分かった。

さらに,ヘリセンのらせん方向および側面方向への構造拡張により円偏光度が向上することを確認した。

研究グループは,この成果が,高輝度円偏光発光材料の開発のスピードアップに貢献すると期待されるとしている。

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