2021年度レーザー産業賞の受賞社が決定

レーザー学会は,2021年度のレーザー産業賞の受賞社が決定したと発表した(ニュースリリース)。

同賞は今回で13回目となり,市場性や社会的影響のある優れた光学・レーザーに関わる製品・技術に対して「優秀賞」,「奨励賞」,「貢献賞」,「特別賞」に区分し,毎年表彰している。

2021年度の受賞社は9社で,優秀賞には古河電気工業,QDレーザ,アイシン,「奨励賞」にはニデック,アドバンテスト,「貢献賞」には天田財団,三菱電機,堀場製作所,「特別賞」にはカナレ電気がそれぞれ受賞した。なお,受賞対象製品と選考理由は下記のとおり(情報提供:レーザー学会)。

■優秀賞
・古河電気工業:デジタルコヒーレント通信用DFBレーザーアレイ型狭線幅波長可変レーザー
2000年から研究開発を開始し,モノリシック集積を可能にした半導体技術,樹脂接着を用いた小型パッケージ技術,低雑音制御回路技術の開発により,世界最高水準の高出力,高波長安定性,狭線幅波長可変光源を実現している。2012年から販売を始め,2016年度までの販売実績は十分あり,国内シェア,世界シェア共に高い。今後,伝送容量の更なる拡大が予想されており,次世代光通信のキーデバイスとして期待できる。また,高精細テレビなどの普及など多くの経済的効果を生み出すことが期待できることが評価された。

・QDレーザ:網膜投影レーザアイウェアの世界初の製品化
赤緑青の3原色レーザーを光源としフルカラーの映像を網膜に直接投影する技術で,QDレーザ社の新規事業としてレーザアイウェアを開発した。装着者の結像機能やピント位置に影響を受けず,視野に自然に重なる鮮明な映像を表示することができる。2018年度にRETISSA Displayとして世界で初めて商品化し,2020年1月には国内医療機器製造販売承認を取得している。

不正乱視,角膜混濁などの前眼部疾患の適用に絞っても日米欧で9,000億円の市場があると推測され,これから販売台数は伸びていくと予想できる。今後,視覚障害の急増という高齢化社会の社会的課題に対処するため,視覚障害者の支援と眼科疾患への適用のみならず,医療検査機器業界企業,医療サービス業界企業などへと新規市場への展開も見込めるとして評価された。

・アイシン,アート金属工業株式会社,IMRA AMERICA,:超短パルスレーザー加工による自動車エンジン用ピストンの低フリクション化技術
2018年ノーベル物理学賞を受賞したCPA技術を用いた,産業用の高強度超短パルスファイバーレーザーを開発し,2018年4月より量産実用化を行なった。応用先は自動車エンジンのピストン・コンロッド系の鏡面加工した摺動面(ピストンスカート)への溝加工を行なうレーザー加工である。

これにより,エンジン内部のフリクションの低減のための鏡面加工部にオイル溜まりを形成できるので,焼き付けを起こすこと無くフリクションを25%低減し,エンジンの最大効率40%達成に大きく寄与した。2019年度の日本国内だけでもファミリーカーを中心とした量産車で高いシェアのピストンを加工しており,自動車由来のCO2削減に貢献していると言える。今後は様々な摺動部をもつ生産設備や治具などへの展開が見込まれ,レーザー加工の裾野を拡げていくことが期待できるとして評価された。

■奨励賞
・ニデック:共焦点走査型ダイオードレーザ検眼鏡
眼底検査を目的とした撮影光源に微弱なレーザー光を用いており,網膜断層像を従来にない3原色で撮影可能としたことで正常と病変の部位間を,コントラストを強く映し出すことのできる優れた製品。産学連携による医療用技術開発をしている点において,最先端の研究プロジェクトで開発された技術の実用化・事業化の先行例として高く評価できる。このように産業への貢献度は高く,また市場からの期待も高く,海外市場への展開も実施している製品で,今後,AIによる画像認識・判定能力の更なる向上が期待できるとして評価された。

・アドバンテスト:光超音波顕微「Hadatomo Z」
生体にナノ秒パルスのレーザー光を照射し,発生した超音波を受信するイメージング手法である本製品の特徴は,光の吸収特性による酸素飽和度の算出,血液やメラニンの選択的イメージングを可能としたもので,皮膚疾患の診断や美容分野における皮膚の研究への応用が期待できる。また,2010年から研究開発を開始し,2019年に2波長化し製品化しており,内閣府ImPACTプログラムの成果を製品化したものである。現在の主な応用先は皮膚の研究分野であり,販売実績はまだ少ないが,今後は医療機器への応用展開が期待できるとして評価された。

■貢献賞
・天田財団:レーザプロセッシング分野の研究に対する助成
1987年の財団設立から社会実装に主軸を置いたレーザープロセッシング分野への研究助成による多大なる貢献,およびレーザー加工に関する若手研究者支援は大変重要であり,累計の助成件数,助成金総額共に大変高いものとして評価された。

・三菱電機:三菱インフラモニタリングシステムⅡ(MMSDⅡ)
道路や鉄道を走行しながら8Kラインカメラ,高密度レーザーによる形状確認や劣化進行の確認を行なうシステム。同社の総合力を以てインフラの劣化診断システムとして実用化したもので,維持管理の負担を減少するものであり,販売実績として鉄道会社,高速道路会社,地方自治体などへの点検実績が多数ある。このような実績から,本システムはレーザー技術を応用した製品であり,インフラモニターシステムとして社会実装したことにより広く社会の安全安心に貢献した製品として評価された。

・堀場製作所:パルス圧縮用回折格子
2018年ノーベル物理学賞を受賞したCPA技術を支える回折格子製品。その極めて高い製造技術は超短パルスレーザーの高強度化の根幹技術でもあり,それに不可欠な光学素子を高い性能と品質で安定に市場に供給してきた実績は高く評価できる。特殊製品ではあるものの,国内の全ての主要研究施設への納入実績に加え,世界での販売実績なども含めて多年にわたるレーザー産業への貢献が評価された。

■特別賞
・カナレ電気:高出力レーザー用蛍光式ビームプロファイラ「BPF-L/Sシリーズ」
本製品は,連続光やパルスに依らず高出力レーザーを減衰させることなく直接入力するだけで レーザービーム特性を計測できる方式を採用している。これによりユーザの手間を煩わすことなくビーム計測ができるというユーザビリティに優れた製品となっている。海外の競合製品がひしめくビームプロファイラ製品の市場に,国産製品を上市した企業の挑戦的な姿勢に敬意を表し,今後,本製品の優れたユーザビリティにより幅広いユーザに普及していくことが期待されている。

授賞式はOPIE2021会期2日目の7月1日に特設会場内で執り行なわれる予定で,昨年中止となった2020年の受賞社に関してはパネル展示で受賞が公開される予定だ。

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