茨城大学,大阪大学,東北大学,日本原子力研究開発機構,総合科学研究機構は,反応温度が80℃以下という低温領域でチタン酸バリウム(BaTiO3)を合成し,そのナノキューブ化と粒子表面の原子配列の可視化に成功した(ニュースリリース)。
強誘電体として知られるチタン酸バリウム(BaTiO3)を用いた誘電体材料の性能を向上させるためには,基盤となるBaTiO3の粒子設計,とりわけ粒子表面を利用した材料設計が重要となる。そこで研究では結晶面(ファセット)が露出したBaTiO3のナノキューブ化に取り組み,その粒子表面の原子配列を明らかにした。
一般にBaTiO3は1000℃以上での焼成を必要とするが,研究では原料である酸化チタン(TiO2)の粒径に着目し,25nm以下のTiO2ナノ粒子を用いて溶液反応を行なうことによって,40℃以上でBaTiO3が生成することを確認し,80℃でBaTiO3単一相が合成できることを見出した。
研究では一般にナノ粒子の合成に用いられる界面活性剤を使用せず,水を溶媒とする水熱法でBaTiO3のナノキューブ化を可能にした。また,核生成剤として溶解度が高いチタンアルコキシドを結晶成長剤としてTiO2ナノ粒子を使用し,これらを組み合わせてチタン原料として,アルコールを溶媒としたソルボサーマル法を用いることにより,平均粒径37nmという微細なBaTiO3ナノキューブの合成に成功した。
このBaTiO3ナノキューブに対し,詳細な結晶構造解析を行なった。一般にBaTiO3は粒子サイズが小さくなると立方晶系となることが知られているが,このBaTiO3ナノキューブは正方晶系を示した。また,XRD測定をもとに二体分関数解析を行なった結果,BaTiO3の自発分極の起源となるサイトを見出した。
BaTiO3はペロブスカイト構造を有するが,BaTiO3が単位格子に起因する規則正しい原子配列をしているのに対し,BaTiO3ナノキューブ粒子の最表面はチタンカラムのレイヤーで構成されていることを明らかにした。このチタンカラムのレイヤーは二層でできており,例えば,BaTiO3のナノキューブを集積化させて粒子の界面を歪ませることで,大きな誘電特性の発現を期待することができるという。
この合成技術はBaTiO3以外のペロブスカイト型酸化物のナノキューブ合成にも応用できる。例えば,水分解光触媒としての性能を有するチタン酸ストロンチウム(SrTiO3)をナノキューブ化し,結晶面(ファセット)が露出したナノクリスタルを生み出すことができれば,効率よく水を分解して水素と酸素の生成が期待できるとしている。