筑波大ら,圧力下でのガラス相転移機構を解明

筑波大学,デンマーク オーフス大学,愛媛大学,島根大学,理化学研究所(理研),高輝度光科学研究センターは,圧力の変化に伴う相変化材料(ガラス)の原子配列の変化を調べ,大気圧下で見られた「パイエルス様歪」と呼ばれる規則的な原子の配列が,圧力の上昇に伴って抑制することを解明した(ニュースリリース)。

不揮発性メモリやブルーレイなど光ディスクの記録膜として用いられる相変化材料でも,ガラスの性質はデバイスの性能を左右する重要な役割を果たす。これらの材料は温度や圧力の変化でガラスの性質が大きく変化することが知られていたが,その背景にある原子配列の変化については未解明だった。

研究グループは,大型放射光施設SPring-8のBL05XUにおける高エネルギーX線を使用した高圧回折実験と,機械学習を用いて開発された原子間ポテンシャルを使用した分子動力学シミュレーションを組み合わせることにより,圧力下におけるガラスの原子配列の変化を調べた。

圧力とパイエルス様歪の関係を調べるために,代表的な相変化材料であるテルル化ゲルマニウムのガラスと,似た組成を持ち,室温大気圧下でより強いパイエルス様歪を示すセレン化ゲルマニウムのガラスを試料として選択した。

その結果,テルル化ゲルマニウムでは圧力の増加に伴ってパイエルス様歪が次第に抑制され,大気圧下と比べて約20%以下に達すると体積弾性率が大きく増加する様子が観測された。より強い歪を示すセレン化ゲルマニウムにおいても,同じ変化がテルル化ゲルマニウムより高い圧力で観測され,歪の抑制と観測されたガラスの相転移の間に有意な相関が見られた。

この結果は分子動力学シミュレーションによって再現され,ガラスの相転移前後の原子配列がパイエルス様歪の有無によって特徴づけられることが明確に裏付けられた。さらに,理論計算の結果は,歪の抑制に伴って電子の状態密度図におけるバンドギャップが消失する様子も示した。これは,相転移に伴って金属-半導体転移が起きている可能性があることを意味する。

これらの結果は,相転移の方向が逆であることを除けば,ガラスの相転移が報告された過冷却液体の相転移とまったく同一の機構で説明されることを示した。これは,パイエルス様歪が幅広い温度と圧力下で相変化材料の性質を左右する本質的な構造的特徴であり,デバイスの高度化に向けた材料開発の新しい設計指針になる可能性を示しているという。

研究グループは,この成果は,パイエルス様歪が相変化材料の性質を左右する本質的な構造的特徴であることを示し,相変化メモリなどの高度化に向けた新材料開発の指針となる可能性があるとしている。

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