国立環境研究所(NIES)は,日本と韓国を対象に中規模以上(0.5MW以上)の太陽光電施設を地図化し,①現在設置されている施設による生態系の損失面積の把握,②施設が設置されやすい場所の自然的・社会的特徴の把握,③将来施設の建設が進んだ場合の生態系損失と対策により改変を免れる面積の予測を行なった(ニュースリリース)。
再生可能エネルギーの発電施設は,その場所の生物・生態系,水循環などの自然環境への影響を通して,自然資本の損失を招くおそれがある。
このため,「再生可能エネルギー発電施設の立地適正化」は,今後の日本と世界にとって重要な課題となる。特に太陽光発電施設は広い設置面積を要するため,自然環境への大きな影響が懸念される。しかしこれまで太陽光発電施設と自然環境の関係について,広域的な解析は行なわれていなかった。
研究は,日本と韓国の0.5MW以上の発電能力を持つ太陽光発電施設を対象に,衛星画像や航空機写真を活用し,ソーラーパネルと付随施設の範囲をデジタルデータ化した。各太陽光発電施設が設置される以前にどのような生態系が存在していたかを把握し,これまでに施設が設置されてきた場所の,自然的(気象・地形など)・社会的(人口・地価など)特徴を整理したモデルを構築した。
現在までと同様な立地の選択で,中規模および大規模施設の面積が2倍に増える場合と4倍に増える場合を想定し,①自然保護区には設置しないとするシナリオ,②現在の土地被覆タイプが「都市」である場所への建設に誘導するシナリオ(都市の選択されやすさを2倍),③都市域での建設に強く誘導するシナリオ(同4倍)の下で,生態系の損失量を比較した。
その結果,現在までに比較的小型の規模の施設が,累積的に自然環境を損なっていることがわかった。今後,これまでと同様の立地条件で設置場所が選択されると,樹林や農地がさらに失われることが予測された。
しかし,施設面積を2倍にする場合でも,自然保護区での設置を制限し,都市での建設に誘導することで,樹林(天然林,二次林・人工林)や農地(畑・水田)の生態系の損失は1.3~3.5%程度抑制できることがわかった。
カーボンニュートラルの実現を進めていく上では,炭素蓄積や健全な水循環の確保などの生態系サービスや生物多様性の保全も同時に目指してくことが重要であり,この研究の結果もそこに役立つものだとしている。