奈良女子大学は,ウミウシの仲間「嚢舌類」(のうぜつるい)の2種において,大規模な自切・再生現象を発見した(ニュースリリース)。
「自切」は,両生類やトカゲ類,節足動物等,広い分類群の動物で見られる。多くの場合,尾や脚といった体の末端部分を自発的に切り落とすことで,本体が捕食から逃れることに役立つ。またほとんどの場合,自切した後には「再生」が起こる。
プラナリアやヒドラ等,2つに分かれた体の両方から完全な体が再生する動物もいるが,複雑な体制をもつ動物が,心臓を含む体部を完全に失っても生存し,再生する例は知られていなかった。
嚢舌類のウミウシは,餌の海藻の葉緑体を体細胞に取り込み,数日から数か月保持して光合成に利用する(盗葉緑体現象)。葉緑体を取り込んだ細胞は頭部を含む体全体に存在しており,全身が緑色となっている。
研究では,継代飼育により室内で維持していた嚢舌類であるコノハミドリガイ計15個体のうち5個体(33%)と,野外で採集したコノハミドリガイの別種(隠蔽種)の1個体が,首元で自切した。このとき,心臓は完全に体側に残されていた。
自切した個体のうち比較的若い個体の頭部は活発に動き回って摂餌し,1週間程度で心臓を含む体部の再生を始め,約3週間でほとんど完全な体を再生した。一方で,切り離された体部は光や接触刺激に反応して動き回り,心臓も拍動を続けていたが,再生はしなかった。
同様の自切・再生を,カイアシ類(コペポーダ)の一種に寄生されたクロミドリガイ82個体中3個体(4%)でも観察した。カイアシ類はウミウシの体に入り込んで産卵を抑制するが,自切を行なったクロミドリガイはこのカイアシ類を完全に排出し,1週間程度で心臓の再生を開始した。一方で,カイアシ類に寄生されていないクロミドリガイ64個体では,自切はまったく見られなかった。
この自切は,コノハミドリガイの首元の溝(自切面と思われる部位)を細い糸で軽く絞めることでも100%誘導できた。ほとんどの場合,自切は1日以内,再生は1週間程度で生じたという。この現象は,複雑な構造をもつ動物が,心臓を含む体の大部分を失っても生存し,再生するという点でほぼ初めての報告であり,知られている限り最も大規模な自切の例だとする。
この自切の目的は,少なくともクロミドリガイでは産卵を抑制する寄生者を排除することにあり,自切に長い時間がかかるため,捕食回避を主な目的とする可能性は低いという。
なぜこのような自切・再生が可能なのかは不明だが,研究グループは,嚢舌類のもつ光合成能力によって,頭部だけでも光があればエネルギーを獲得できることが関係していると推測している。