神戸大と米モンタナ大らは,大半の藍藻がもつアンテナ色素(フィコシアニン)は,クロロフィルdをもつ変わった藍藻であるアカリオクロリスの進化の中で一旦失われ,例外的に一つの系統では類似のアンテナ色素を再び獲得したことを明らかにした(ニュースリリース)。
藻類のカラフルな色は,様々な光合成色素の組み合わせで決まる。この組み合わせは分類群毎にほぼ同じだが,これは藍藻や真核藻類の複雑な進化の過程で光合成色素の置き換えが繰り返し行われた結果と考えられてる。しかし,その仕組みや理由はまだわかっていない。
大半の藍藻類は,光合成色素として緑色のクロロフィルaとアンテナ色素の一種である青色のフィコシアニンを主な成分としてもつため,細胞は藍色を呈している。フィコシアニンをもつことでクロロフィルaが吸収する太陽の赤色や青色の他,緑色や橙色の波長成分も光合成に利用できる。
一方で藍藻の仲間には,クロロフィルaの他にクロロフィルbなどを持つ仲間も稀に見つかる。これらの藍藻はフィコシアニンをもたないことが多く,藍色ではなく黄緑色を呈している。今回取り上げた藍藻アカリオクロリスは,クロロフィルdを豊富にもつ変わった藍藻の一つ。クロロフィルdはクロロフィルaでは利用しにくい遠赤色光を光合成に利用できる。
研究グループは,淡路島の紅藻や沖縄のホヤからアカリオクロリスの分離培養を進める中で,最初に報告され光合成研究に多用されているパラオ株とは色合いが異なる黄緑色の株ばかり得られることに気づいた。パラオ株だけはゲノムにフィコシアニン遺伝子群を保持し,青色のフィコシアニンを発現させているため藍色を呈している。
今回,世界各国のアカリオクロリス株について,ゲノムを網羅的に解析し,アカリオクロリス属内の系統関係,並びにフィコシアニン遺伝子の有無について解析を行なった。その結果,既に報告されているアカリオクロリス属藍藻の中で,分子系統解析から最も古く分岐したと推測されるフランス株とパラオ株以外の株ではフィコシアニン遺伝子は検出できなかった
これらの株についての分子系統解析から,アカリオクロリス属藍藻内での進化の道筋について,大半の藍藻がもつアンテナ色素は,アカリオクロリスの進化の中で一旦失われ,例外的に一つの系統では類似のアンテナ色素を再び獲得したことが明らかになった。
研究グループは,これはアカリオクロリス属藍藻の特殊なケースでの知見に過ぎないものの,光合成アンテナ色素の適応進化に関する普遍的な理解へも繋がることが期待されるとしている。