東京大学は,ずれから生じる周期性「モアレ」を,分子の世界で実現した(ニュースリリース)。
ナノメートルサイズの構造をもつ炭素であるナノカーボンは,その独特の形状・性状から新しい材料として期待されている。
ごく最近,炭素の層状構造を二層重ねる際には,「ずれた配置」をとり得ることに注目が集まってきた。このずれた重ね合わせ「不整合組み合わせ」と,そこから生まれる新しい大きな繰り返し模様「モアレ(ずれの周期性)」からは,超伝導などの新しい性質をもたらすことが見いだされており,その例として,二層型グラフェンや二層型カーボンナノチューブがある。
ところが,これまでのナノカーボンのモアレは,一つの明確な分子構造をもつ例がなく,化学を用いた理解にまでは至っていなかった。例えば,二層型カーボンナノチューブのモアレではさまざまな組み合わせが可能だが,可能な組み合わせのうち,どのような構造が安定となるのかなどについては,確たる証拠や結果は得られていなかった。
今回,研究グループは,カーボンナノチューブの部分構造をもったナノカーボン分子を,大小二種類の筒状分子として設計し,化学合成した。そして,この二つの筒状分子を混ぜたところ,自発的に二層型カーボンナノチューブ分子が組み上がった。これは,一義的に構造の決まった「分子性物質」として「モアレ」を登場させたはじめての例となるという。
大きな発見として,二層型カーボンナノチューブ分子の組み上げの際,特定の組み合わせ構造が好まれて生成する「選択性」が見つかった。今回の研究の筒状分子は,いずれも「らせん型カーボンナノチューブ分子」であり,それぞれに右巻きと左巻きという種類が存在した。
このため,二層型カーボンナノチューブ分子の組み上げの際には,「右巻き同士/左巻き同士」と「右巻きと左巻き」の2組,合計4種類の組み合わせが生じ得るはずだが,実験的には「右巻きと左巻き」の「異なるらせんをもつ組み合わせ」のみが得られた。
またこの二層型カーボンナノチューブ分子では,層間での電子的な相互作用があることが見いだされており,モアレによる物性制御が可能となることが示唆された。先行研究では,電子顕微鏡の観察結果により「同じらせんをもつ組み合わせの二層型カーボンナノチューブが安定であろう」という提唱がなされていたが,これはその定説を覆すもの。
今回の成果は,「モアレの分子設計」という新しい研究課題の登場を示すものであり,将来,機能性材料の基盤となる可能性がある。研究グループは,今後の炭素材料の発展に重要な基礎的知見となることが期待されるとしている。