関西学院大学と豊田通商は,次世代パワー半導体材料SiC(炭化ケイ素:シリコンカーバイド)基板内の欠陥を無害化する表面ナノ制御プロセス技術 「Dynamic AGE-ing」を開発し,6インチSiC基板での性能検証を完了した(ニュースリリース)。
SiCは,現在広く普及しているパワー半導体材料であるSiと比較して,電力ロスを大幅に低減でき,電力利用の効率化および冷却装置の小型化を可能にする。
中・高耐圧デバイスを必要とする自動車,鉄道,産業機器,電力などグリーンイノベーションが進む分野で実用化が始まっており,なかでもEV・HV・FCVなど電動車からのニーズが高く,国内外の自動車産業において大きな需要拡大が見込まれている。
信頼性が高いパワー半導体を低コストで製造するには,高品質で大口径のSiC基板の安定供給が必要となる。しかし,これまでのSiC基板は,機械加工で生じる結晶の歪み(加工歪み層)や内在する欠陥である基底面転位(Basal Plane Dislocation:BPD)により,その上に形成されるパワー半導体の性能が大きく損なわれることが課題となっていた。
研究グループが開発した独自技術「Dynamic AGE-ing」は,従来の機械加工とは異なる,熱エッチングと結晶成長を統合した非接触型のナノ制御プロセス技術。この技術は,SiC基板を超高温下の気相環境におくことで表面の原子配列を自律的に整えることにより,加工歪み層の完全除去の機能に加えて,BPDの伝播遮断による無害化を実現するという。
この適用により,メーカーやサイズを問わずSiC基板を高品質化し,さらに基板製造工程の簡略化と歩留まりの改善により,SiC基板の生産性向上も可能にした。
研究グループは「Dynamic AGE-ing」を適用したSiC基板のサンプル供給を,2021年度上期より開始し,半導体デバイスメーカーと共同で実用化に向けた評価検証を進めていく。今後,自動車分野を中心とした幅広いユーザー企業へ,高品質で競争力の高い6インチSiC基板を供給するため, ビジネスパートナーを広く募り,量産化の早期実現を目指す。併せて,大口径8インチSiC基板への適用に向けた開発も加速させていくとしている。