名古屋大学,千葉大学,慶應義塾大学,高輝度光科学研究センターは,リチウム,バナジウム,硫黄からなる無機結晶が,柔粘性結晶のような格子ダイナミクスを示すことを発見した(ニュースリリース)。
原子が規則的に整列した固体結晶の中には,低温に下げると格子が自発的に変形して規則的なパターンを形成するものが存在する。こうした特徴的なパターンは低温でのみ安定に存在し,相転移温度を超えると消失すると思われていた。
今回の研究対象物質であるLiVS2では,バナジウムが二次元三角格子を形成しており,41℃以下では,隣り合う三個のバナジウムが凝集して,三量体とよばれる三角形の分子が二次元格子上の至るところで現れる。
研究グループは,41℃以上の高温において格子の無秩序な変調構造が現れるか明らかにするために,X線全散乱実験,X線回折実験,走査透過型電子顕微鏡実験を行なった。その結果,LiVS2の高温相では,低温で現れる三量体とは異なるジグザグ状の量体化分子が様々な方向を向いて出現しており,かつ,秒程度の時間スケールで方向と空間的な広がりを変化させるダイナミクスを示すことを明らかにした。
ジグザグ鎖の伸びる方向は全体としてはランダムだが,同じ方向を向いたジグザグ鎖のまとまりは相転移温度直上で最大となり,サブマイクロメートル程度の非常に長いスケールになる特徴がある。また,低温で現れる周期的な格子変調が高温で無秩序化して現れる例は複数の系で見出されていたが,低温とは異なるパターンが無秩序なパターンとして現れるのは,既存の物質例にはないユニークな特徴だという。加えて,こうした無秩序パターンが時間空間的に揺らいで現れるダイナミクスを見出した例は世界初の発見となる。
研究で初めて明らかにされた無秩序な格子変調のダイナミクスは,従来の物質系とは異なる多くの特徴を有しており,鉄系高温超伝導体をはじめとした多くの固体物性の基礎研究に新たな知見を与えるもの。
また,今回見出された格子変調のダイナミクスは既存の物質系では見出されていない新しい現象であり,これは液晶など「ソフトマター」の一種である「柔粘性結晶」の特徴そのものだという。つまり,この研究には「無機柔粘性結晶」の実現に相当するインパクトがあり,新しい機能性材料の開発へとつながるものだとしている。