東京都市大学,工学院大学,香川大学は,360度のバーチャル空間を提示する2種類の「没入型ディスプレー」についてユーザーの認知活動(思考)に及ぼす影響を多面的に評価し,認知活動の促進には室内投影型(CAVE)の方が頭部装着型(HMD)よりも効果的であることを明らかにした(ニュースリリース)。
360度動画(パノラマ映像)は,従来の動画よりもポジティブな感情を引き出すこと,HMD,コンピューター,モバイル端末など多くの一般的なデバイスで視聴できること,動画制作に要する機材や人件費が安いことなどから,マーケティングや情報伝達の手段として,他のVR技術より一般的なものになりつつある。
前方以外の映像を含む360度動画を視聴しているユーザーは,単に動画を受動的に受け取り処理するのではなく複合的な認知活動を行なっていると考えられている。一般に,ある課題を行なっている人間の認知活動を測定する場合,認知活動の過程(どのように課題を処理したか)と認知活動の性能(どの程度課題を達成できたか)の両方の観点から測定することが重要となるという。
研究では,360度動画視聴用のディスプレーとして急速に普及が進むHMDと,今後普及が見込まれる,四方の壁に360度の動画(パノラマ映像)を映し出すプロジェクション型ディスプレーであるCAVEの2種類の没入型ディスプレーについて,360度動画視聴時のユーザーの認知特性を,認知活動の過程と性能の両観点から,認知・生理・行動の指標を用いて,多面的に分析した。
実験では,15人の大学生が,HMDとCAVEを使って複数の360度動画を視聴した。認知活動の過程を測定するために,脳波・心拍・鼻部皮膚温度等の生理的指標および360度動画の左右や後方までどれくらい見回すかといった行動的指標を用いた。また,認知活動の性能を測定するために,視聴後に動画の内容をどれだけ覚えているかの記憶テストを行なった。
実験の結果,CAVEで視聴すると,視聴中はユーザーに適度な認知負荷がかかり(交感神経活動を反映するとされる鼻部皮膚温度が低下し)かつ記憶テストの点数が高く,HMDで視聴すると,視聴中,ユーザーは動画の後方までよく見回すものの記憶テストの点数は低いことが明らかになった。
今回の結果から,活発な認知活動が期待される教育や学習の場面での360度動画の視聴にはCAVEの方が適しており,エンターテインメントやヒーリングの場面にはHMDの活用が適していると考えられた。今後,用途に応じた没入型ディスプレーの活用が促進されることを期待するとしている。