京都大学は,細胞内に導入した合成メッセンジャーRNA(mRNA)からタンパク質への翻訳を光により制御するシステムを開発した(ニュースリリース)。
合成メッセンジャーRNAはDNAと同様に導入先の細胞において任意の遺伝子を発現させられる一方で,DNAとは異なりゲノムに挿入変位を起こす危険性がない。そのため,遺伝子治療やワクチンのような医療目的での遺伝子導入において期待が寄せられている。
しかしながら,DNAと比べて部位特異的な遺伝子発現の制御が難しく,免疫応答を回避するための修飾塩基を含む合成メッセンジャーRNAの場合は特にそれが顕著だった。
開発したシステムは「光により活性化される低分子化合物」,「活性化された化合物に応答する翻訳制御タンパク質」ならびに「翻訳制御タンパク質に結合するRNAモチーフを有する合成メッセンジャーRNA」の三つにより構成される。
また,外部からの合成メッセンジャーRNA導入は免疫応答を惹起するという問題点があるが,このシステムで用いる合成メッセンジャーRNAは免疫応答を回避するための修飾塩基を含んでいる。
研究グループはこのシステムにより,光が照射された細胞特異的に合成メッセンジャーRNAからタンパク質への翻訳を活性化または抑制することに成功した。
この研究の成果は,修飾塩基を含む合成メッセンジャーRNAの翻訳を光照射部位特異的に制御可能にするものであり,これにより疾患部位特異的に治療遺伝子を発現させることで,高い治療効果と正常部位での副作用回避を両立する新しい遺伝子治療に繋がるものだとしている。