東北大学は,紫外ランプを用いた簡易な装置を用いて,呼気中のアセトンガスを精密に測定し,運動後の脂肪燃焼の様子をモニタリングすることに成功した(ニュースリリース)。
生体でエネルギー源として糖質より脂質が使用されるようになると,脂質代謝の副産物としてアセトンが生成され,血中アセトン濃度が増加することが知られている。
この血中アセトンは,揮発性のアセトンガスとして呼吸に伴い体外に放出される。そのため,呼気中のアセトンガス濃度をモニタリングすることにより,脂肪燃焼の様子を知ることができ,代謝能力の評価や,脂質燃焼に効果的な運動法の開発へとつながると期待される。
ただし,脂質代謝で生じるアセトンガスはごくわずかなため,脂肪代謝をモニタリングするためには高い測定精度が必要とされる。これまではガスクロマトグラフィーを用いた質量分析装置が主に用いられてきたが,これらの装置は大型かつ高価であるとともに,リアルタイムでの測定ができないため,小型・低コストで,かつリアルタイムでの測定が可能な装置の開発が望まれていた。
研究では,アセトンガスが極端に波長の短い真空紫外光に強力に吸収されることに新たに着目。細い管状の光ファイバである中空光ファイバの中に呼気を閉じ込め,そこへ真空紫外光をあてて,アセトンガスに光が吸収されて弱くなる度合いを測定した。この方法により,一般的な健常者の呼気中アセトン濃度である1ppm(0.0001%)に対して,0.03ppmというきわめて高い精度での測定が可能になった。
測定装置を構成する機器は,真空紫外光を発生する重水素ランプ,中空光ファイバ,小型分光器の3つだけというシンプルな構成のため,小型かつ低コストな装置となるという。また測定に要する時間は6秒程度で,ほぼリアルタイムでのモニタリングが可能。
この装置を使って実際に脂肪燃焼のモニタリング実験を行なった結果,呼気中のアセトン濃度は運動中はほぼ一定であったのに対して,運動後に徐々に増加することがわかった。これは主に運動後に脂肪燃焼が生じていることの現れだという。
またこの装置は,アセトンと同様に脂質代謝の指標となるイソプレンも同時に測定することができ,2つのガスを同時にモニタリングすることにより,脂質代謝の詳細なメカニズムの解明に貢献することも期待される。
さらに,インスリン欠乏により糖質を取り込めず,先に脂質を消費してしまう糖尿病患者の呼気中にアセトンガスが高い濃度で含まれていることから,研究グループは,無侵襲の糖尿病診断へ応用することも期待できるとしている。