北海道大学とデンマーク コペンハーゲン大学は,大気汚染物質PM2.5を構成する分子の一つであるo-ニトロフェノールへの光照射により亜硝酸が生成される過程を,極端紫外フェムト秒光パルス光源を用いて,光照射直後から亜硝酸が解離(生成)するまでをリアルタイムで観測し,約400fs後から解離し始めることを明らかにした(ニュースリリース)。
石炭などの化石燃料の燃焼や森林火災は,ニトロフェノール類を含む揮発性有機化合物(VOC)を発生させ,VOCはエアロゾル粒子と呼ばれる微粒子として大気中に存在する。
大気中の亜硝酸は光化学スモッグの原因である光化学オキシダント生成に寄与しており,その由来は大気汚染物質PM2.5を構成する分子の一つであるニトロフェノール類の太陽光による光分解が有力視されているが,その光分解過程は観測されたことはなかった。
そこで研究グループは,極端紫外フェムト秒光パルス光源を用いてその過程の観測に挑戦した。ポンプ光により化学反応を開始し,遅延時間をつけたプローブ光で変化を観測するポンプ・プローブ法により,化学反応の進行を捉えた。
亜硝酸を検出するには波長が短いプローブ光が必要なため,これまで観測することは困難だった。研究グループは今回,高次高調波発生を利用して独自に開発した極端紫外フェムト秒光パルス光源を光電子分光に適用した。
その結果,亜硝酸のリアルタイム観測に初めて成功した。測定した光電子スペクトルを高精度の量子化学計算と比較することで,分子の状態を決定した。
光励起後,光電子スペクトルは時々刻々と変化する。亜硝酸を示す信号は,光励起後374fs後から現れ,時定数433fsで徐々に強くなることがわかった。すなわち,374fs後から解離が始まる。
これまでの研究では光照射直後の状態のみが観測され,亜硝酸の生成過程については推測するしかなかった。この研究により,亜硝酸の生成に至るまでにいくつかの状態を経由することが解明され,このような化学反応の進行には,光照射により分子の形状が歪むことが重要であるとともに,o-ニトロフェノールへ太陽光が照射されることが亜硝酸生成の直接要因の一つであることも明らかになった。
極端紫外光を用いた光電子分光法は,化学反応の計測法として幅広い応用が期待される。例えば,コロナウイルスは紫外線により不活性化されるとされており,恐らく化学結合の切断が起きていると考えられるという。極端紫外光はそのような変化を敏感に捉えるため,コロナウイルスが不活性化される機構解明への貢献にも期待されるとしている。